対談記事 乳がん治療・新時代対談記事 乳がん治療・新時代

乳がん治療・新時代のインタビュー風景写真。乳がん治療は、ご自分の価値によって選べる時代です。私にとっては、時間の負担がすくないことが大事です。

膳場 貴子

ニュースキャスター TBSサンデーモーニング司会

東京大学医学部健康科学・看護学科(現、健康総合科学科)卒業。日本臨床腫瘍薬学会市民公開講座の司会でも知られ、がん医療への自身の夢(思い)を語る「マイ・オンコロジー・ドリーム映像」を公開。

原 文堅

愛知県がんセンター 乳腺科部部長

岡山大学医学部卒業。米国テキサス大学 MD Andersonがんセンター研究員、岡山大学血液・呼吸器腫瘍内科、四国がんセンター 乳腺科、がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科を経て2024年現職。

対談日:2025年7月24日 場所:東京都内

乳がん医療は年々進化し、早期発見・早期治療だけでなく、治療の選択、
例えば「時短」という考え方なども取り入れて、
ご自身が大切にしたい生活を守りながら治療を受けることも可能になってきました。
「乳がん医療の今」を膳場貴子さんが取材しました。

膳場

日本では今、9人に1人の女性が乳がんになると言われています1)

25年前は25人に1人でしたから、急増していると言えます。日本人の罹患率は、30代から増え始め、40代後半と60代後半に2つのピークがあります。

膳場

この年代は、子育て、仕事、介護など、家庭や社会生活で多くの役割を担う大変忙しい時期です。ご自身はもちろん家庭や社会に与える影響は大きいですね。

その影響を最小限にするためにも、日本では、40歳から乳がん検診を推奨しています。ステージⅠで見つかれば5年生存率は99%、やや進行したステージⅢでも80%以上です2)
ただ、それでも「自分は大丈夫」、「怖い」という気持ちから、検診を見送る方も多いようです。
そこで我々は、検診以外にも、「ブレスト・アウェアネス」といって、自分の乳房を意識し、乳房の変化に気づいたらすぐに受診しましょう、と呼びかけています。

膳場

私も乳がんと診断されるのは怖いですが、早期発見のためにも、「ブレスト・アウェアネス」は生活習慣にしたいですね。下着をつけるとき、入浴時など、胸に意識を向けることならできそうです。それでも、早期に見つからないこともあると思います。

ステージⅢまでは徹底して完治を目指します。他の臓器へ転移したステージⅣでも、治療の種類が増え、治療成績も少しずつ上がってきています。

膳場

想像以上に、乳がんは完治を目指せるのですね。ただ乳がんの多くは、手術後も治療が続くと聞きました。

乳がんは初期の段階から、「微小転移」が見られることがあります。全身のがん細胞を消失させるために、抗がん剤や女性ホルモンの働きを抑える薬を組み合わせて治療する必要があるのです。

日常生活や仕事は治療と
両立できる時代です

膳場

治療は通院で行われることが多いそうですね。生活への影響はとても気になります。趣味や生きがいもありますし、できないことやあきらめることが多くなるのでは、と想像すると不安になります。

今は吐き気や痛み、脱毛などの副作用対策が進み、治療の影響を緩和できる時代になっています。

膳場

それを伺って安心しました。では仕事はどうでしょう。がんの告知に気が動転し、会社を辞めてしまう「びっくり離職」という言葉もあると聞きました。

実際にがんと診断された直後に離職されるケースはよくありますが、今は、仕事も両立できる時代です。仕事は収入を得る以外にも、社会との接点であり、生きがいにもつながります。副作用が仕事の大きな障害になるなら、他のお薬に変えることも検討しますので相談してください。治療が中心ではなく、生活の一部ととらえて日々を過ごしていただきたいのです。

乳がん治療中の生活にも取り入れられる、
“時短”という考え方

収入の減少や高額の治療など家計に与える苦痛を「経済毒性」とよび、がん治療の副作用ととらえています。近ごろは「時間毒性」という考えも出てきています。

膳場

私は知らなかったのですが、最新の学会でも話題にのぼっているようですね。「時間毒性」とは具体的にどのようなものでしょうか。

たとえば、点滴による抗がん剤治療は、通院や待ち時間を含めると一日がかりです。仕事やプライベートの調整が必要になったり、送迎が必要な場合には、ご家族の予定にも関わることがあり、時間的な困りごとを訴える声は以前からありました。この「時間毒性」を解消する手段として、飲み薬や皮下注射といった様々な抗がん剤が開発されるなど、企業による取り組みが進んでいます。

膳場

一日がかりですか。私にとって、時短は本当にありがたいですし、患者さんへの優しさを感じます。一方で、病院での時間が唯一、家や仕事から解放され、自分と向き合える大切な時間とおっしゃる方もいるそうです。それぞれ価値観は違いますね。

乳がん治療・新時代のインタビュー風景写真。

あなたの希望を聞かせてください
医療者と共に考える治療選択

膳場

乳がんは完治を目指すだけでないのですね。罹患しても多くをあきらめることなく、自分が大切にしたいことや、生活を重視した治療の選択肢があることをお聞きできてよかったです。ただし、望む治療を選択するには、医師とのコミュニケーションは必須ですね。

私が治療方針を提案するときは、患者さんの希望や気持ちを必ずお聞きします。妊孕性(妊娠する力)の温存や、乳房再建などについてもご説明します。すべてが希望通りにはいかなくても、「大事にしたいこと」と「命」の両方を優先できる治療を、対話を重ね、一緒に考える。このプロセスを大切にしています。ですから、患者さんが私たちに気持ちを伝えてくれると、とても助かります。入学式や旅行など、ご本人にとって大事な予定があれば、治療スケジュールを調整することもできますので、まず伝えてください。

膳場

本人の声を聞き、一緒に考えたいと言ってくださることは心強いです。私も罹患したら、自分の考えや希望を伝えたいと思います。私は仕事を最優先にして、家のことは手を抜くかもしれません(笑)。ただ忙しい医師に自分の希望を伝えるのは気が引けるという方もいらっしゃると思います。

今は、専門家によるチーム医療が定着していますから、看護師、薬剤師や相談支援センターなどに声をかけてください。早い段階から患者さんと医療者が共に選択肢を考える必要性を、私も実感しています。

膳場

治療選択のプロセスは、自分の人生で大切なものと、そうでもないものを仕分けたり、役割や時間配分の見直しをする、「棚卸し」作業なのかもしれませんね。

そうですね。実際に多くの患者さんが、がんは大切なものを見つめ直すきっかけになった、以前より自分に向き合えるようになったとおっしゃいます。

膳場

「がんは不治の病」という刷り込みが私のなかに根強くありましたが、お話をお伺いして、乳がんは、生活を維持しながら向き合える病気になっていることは大きな発見でした。私同様、「時短」などの選択肢があることを知って、治療を生活の一部ととらえることができた方も多いのではないでしょうか。今回のように情報がアップデートされると、乳がんになったとしても最初の向き合い方から変わりますね。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」

  2. 2)同「院内がん登録生存率集計」

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