監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科
教授 岸 一馬 先生
がんの大きさや広がりから肺がんの病期(ステージ)を分類
肺がんの治療法を決めるうえで、必要となるのが病期(ステージ)です。がんがどのくらい広がっているか、転移しているかなど、がんの進行状態から分類されます。
肺がんの進行状態をあらわす分類法として「TNM分類」があります。TNM分類は、がんの大きさや広がり具合いを示すT因子、リンパ節への転移の有無を示すN因子、他の臓器への転移の有無を示すM因子の3つの因子からなり、これらを総合的に評価して病期(ステージ)を決定します。病期(ステージ)は進行の度合いから、0~Ⅳに分けられ、さらにA・B・C、1・2・3などに分類されます。
表:TNM分類とは
T因子 | 最初にできた腫瘍の進行度合い | 腫瘍(Tumor)の頭文字より |
---|---|---|
N因子 | リンパ節への転移の状態 | リンパ節(Lymph Node)より |
M因子 | 他の臓器への転移の状態 | 転移(Metastasis)の頭文字より |
癌の大きさや転移している部位で分類
肺癌の病期(ステージ)を決める要素である「TNM分類」は、国際対癌連合(UICC)が採用している癌の国際的な進展度分類です。2017年1月に改訂され、現在は第8版が使われています。
T因子は、最初にできた腫瘍の進行度合い(大きさ)からT1~T4の4つに分類し、さらにT1、T2は、mi、a、b、cなどへ細かく分けます。
腫瘍があるのかどうか判定できない場合はTx、腫瘍が見つからない場合はT0とされます。癌細胞が、臓器の表面をおおう上皮までにとどまっている癌は上皮内癌と呼ばれ、Tisに分類されます。
表:肺癌のT因子
Tis | 上皮内癌、肺野部に腫瘍がある場合は充実成分※1の大きさが0cm、かつ癌の大きさ※2が3cm以下 |
---|---|
T1 | 充実成分の大きさが3cm以下、かつ肺または臓側胸膜におおわれ、葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない) |
T1mi | 微少浸潤性腺癌で充実成分の大きさが0.5cm以下、かつ癌の大きさが3cm以下 |
T1a | 充実成分の大きさが1cm以下で、TisやT1miには相当しない |
T1b | 充実成分の大きさが1cmを超え2cm以下 |
T1c | 充実成分の大きさが2cmを超え3cm以下 |
T2 |
充実成分の大きさが3cmを超え5cm以下 または、充実成分の大きさが3cm以下でも下記のいずれかであるもの
|
T2a | 充実成分の大きさが3cmを超え4cm以下 |
T2b | 充実成分の大きさが4cmを超え5cm以下 |
T3 |
充実成分の大きさが5cmを超え7cm以下 または、充実成分の大きさが5cm以下でも下記のいずれかであるもの
|
T4 |
充実成分の大きさが7cmを超える または、大きさを問わず横隔膜、縦隔、心臓、大血管、気管、反回神経、食道、椎体、気管分岐部への浸潤がある または、同側の異なった肺葉内で離れたところに腫瘍がある |
N因子は、肺の周囲にあるリンパ節への転移があるかどうかで分類します。肺の周囲にあるリンパ節は所属リンパ節と呼ばれ、胸腔内のリンパ節や、鎖骨の上部にあるリンパ節などを含み、転移がどこまで広がっているかによって0~3に分類されます。
表:肺癌のN因子
N0 | 所属リンパ節※3への転移がない |
---|---|
N1 | 同側の気管支周囲かつ/または同側肺門、肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める |
N2 | 同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移がある |
N3 | 対側縦隔、対側肺門、同側あるいは対側の鎖骨上あたりにあるリンパ節への転移がある |
M因子は、離れた臓器に転移があるかどうかで分類します。転移がなければM0、転移があればM1に分類され、M1はさらに転移の見つかった部位によってa~cに細かく分けられます。
表:肺癌のM因子
M0 | 遠隔転移がない |
---|---|
M1 | 遠隔転移がある |
M1a | 対側肺内の離れたところに腫瘍がある、胸膜または心膜への転移、悪性胸水※4がある、悪性心嚢水※5がある |
M1b | 肺以外の一臓器への単発遠隔転移がある |
M1c | 肺以外の一臓器または多臓器への多発遠隔転移がある |
TNM分類では、TNMの3つの因子を組み合わせて、病期(ステージ)を0~ⅣBの14段階に分類します。
最初にできた肺がん(原発巣)が小さく(T1~T2a)、リンパ節への転移がない(N0)場合は、病期Ⅰ期(ステージⅠ)に分類されます。リンパ節の転移はない(N0)ものの、原発巣がやや大きい場合(T2b~T3)や、原発巣が小さく(T1a~T2b)ても、同側の肺門のリンパ節に転移がある(N1)場合は、Ⅱ期(ステージⅡ)に分類されます。原発巣が大きい(T4)場合や、リンパ節転移が広い範囲に及んでいる(N2~3)場合は、Ⅲ期(ステージⅢ)となります。遠隔転移がある(M1)場合には、すべてⅣ期(ステージⅣ)となります。
TNM分類による病期(ステージ)の詳しい分類は以下のとおりです。
表:肺がんの病期(ステージ)分類
M | T | N0 | N1 | N2 | N3 |
---|---|---|---|---|---|
M0 | Tx | 潜伏 がん |
- | - | - |
Tis | 0 | - | - | - | |
T1 | ⅠA | - | - | - | |
T1mi | ⅠA1 | - | - | - | |
T1a | ⅠA1 | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T1b | ⅠA2 | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T1c | ⅠA3 | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T2a | ⅠB | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T2b | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T3 | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅢC | |
T4 | ⅢA | ⅢA | ⅢB | ⅢC | |
M1 | Ⅳ | ||||
M1a | ⅣA | ||||
M1b | |||||
M1c | ⅣB |
原発巣(大もとの肺がん)が小さく、リンパ節転移がない。
リンパ節転移がないが、原発巣がやや大きい。またはリンパ節転移が、原発巣と同じ側の肺門にとどまっている。
原発巣が周囲の重要な臓器に及んでいたり、リンパ節転移が広範囲に広がっている。
脳、肝臓、骨、副腎などに転移している。あるいは胸水がたまり、その中にもがん細胞が見られる。
原発巣の大きさや広がり、リンパ節への広がり、転移の状況により、ⅠA、ⅠA1、ⅠA2、ⅠA3、ⅠB、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、ⅣA、ⅣBとさらに細かく分けられます。
Ⅰ期の5年生存率は80%超、病期(ステージ)が進むほど生存率は下がる
国立がん研究センターが発表している統計によると、病期(ステージ)ごとの5年生存率はステージが進むほど下がる傾向が見られ、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が悪くなることがわかっています。そのため、早期に診断され、治療を開始することが大切です。
病期には2種類ある?臨床病期と病理病期の違い
治療法を決めるうえで必要になる病期診断。さまざまな検査の結果から病期を分類し、手術ができるのか、放射線治療や薬物療法を行うのかを決定します。このように、画像検査や生検など、治療前に得られた情報で判断する病期を「臨床病期」と言います。ただし、画像診断などの結果からわかる癌の情報には、限界があります。
そこで、手術の対象となる場合には、手術後に、手術で取り出した肺やリンパ節の組織を顕微鏡で詳しく調べて(病理検査)、癌の広がりを確認したうえで、改めて病期を確定します。これが「病理病期」です。
手術前には、ⅠA期(腫瘍の大きさが3cm以下でリンパ節や他の臓器への転移はない)とされていた患者さんでも、手術後の病理検査の結果、リンパ節への転移が見つかったり、術前の画像診断結果で想定していたよりも腫瘍が大きいことがわかったりして、病理病期が変わり、治療が追加されることもあるのです。
参考文献
- 日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019
- 渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. 2018
- 坪井正博監修:図解 肺がんの最新治療と予防&生活対策. 日東書院. 2016
- 日本肺癌学会編:肺癌取扱い規約第8版.金原出版. 2017
- 国立がん研究センターがん対策情報センター:がん登録・統計 がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/hosp_c_reg_surv.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月1日)