おしえて先生! 子宮頸がんのコト

大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学 講師 
上田 豊 先生

後悔しないよう、
検診とHPVワクチンで子宮頸がんは
予防できることを知ってほしい。

上田 豊 先生(大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学 講師)

インタビュー実施日:
2023年6月16日(金)
大阪大学医学部附属病院

日本における子宮頸がんの動向を明らかにし、HPVワクチンの普及、子宮頸がん予防の啓発に尽力されている大阪大学・上田豊先生に子宮頸がん検診、HPVワクチンによる予防とその実情について教えていただきました。

子宮頸がんとはどのような病気ですか?

子宮にできるがんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」の大きく2種類のがんがあります。子宮頸がんは子宮の入り口付近である「子宮頸部」に発生するがんです。
子宮頸がんの原因の大半はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。HPVは主に性交渉によって感染します。性交渉の経験がある女性なら誰でも感染する可能性がある、一般的なウイルスです。感染しても大抵の場合は自然に検出されなくなりますが、感染が持続すると、正常な細胞とは異なる形の細胞がつくられ、その一部が数年から十数年かけてがんへと進行します。
初期には自覚症状がほとんどなく、進行すると月経以外の出血(不正出血)などの症状がみられます。症状がみられる段階ではすでに浸潤がんという本格的ながんになっている可能性があります。

日本において、
子宮頸がんの患者さんはどのくらいいますか?

2019年の調査によると、子宮頸がんと診断された患者さんは1年間で約1万人います1)。20代後半から患者さんの数が増えてくる傾向にあります(図1)。

図1:子宮頸がんの年齢階級別罹患率(2019年)

2019年の子宮頸がんの年齢別階級別罹患率

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

子宮頸がんのリスクは性活動や喫煙によって高まります2-4)。20代から子宮頸がんの罹患が増加している理由としては、若年層の喫煙率が特に高くなっているわけではないので、おそらく性交渉を行う年齢の低下が原因と考えられます5)。ただし、子宮頸がんに罹患する人がみんな性活動性が高いというわけでは全くありません。
子宮頸がんの罹患率はいずれの先進国も減少していますが、日本だけが増加しているという特異な状況にあります6)

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
  2. 2)Rotkin ID: Cancer Res 1973; 33: 1353-1367
  3. 3)Peters RK, et al.: J Natl Cancer Inst 1986; 77: 1063-1077
  4. 4)Sugawara Y, et al.: Jpn J Clin Oncol 2019; 49(1): 77-86
  5. 5)Inoue M, et al.: Int J Gynecol Cancer 2006; 16: 1007-1013
  6. 6)Lin S, et al.: Cancer 2021; 127(21): 4030-4039

子宮頸がんをみつけるために、検診は重要ですか?

子宮頸がん検診では、がんはもちろんのこと、がんになる前の細胞(前がん病変)で発見することができます。前がん病変とはHPVに感染した子宮頸部の細胞が変化し、正常とは異なる形の細胞「異型細胞」ができた状態です。
日本では1年間に約3,000人7)の方が子宮頸がんで亡くなっています。検診を受けて早期に発見できていれば助かった患者さんも少なくないと思います。日本では20歳になったら2年に1回、子宮頸がんの検診を受けることをすすめています。

  1. 7)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計 2020年)

20歳になったら2年に1回、
子宮頸がん検診を受けることが推奨されていますが、
実際にはどのくらいの方が検診を受けていますか?

日本における子宮頸がん検診の受診率は約40%であり、これは検診の受診率が80%を超える米国に比べるとかなり低いといえます8)。特に20代の検診受診率は25%程度と非常に低く(図2)9)、20代前半はほんの数%です。若い女性は「検査を受けるのが恥ずかしい」という気持ちがあるかもしれませんが、そもそも20歳になったら子宮頸がん検診を受けるべきであるということ自体を知らない方が多いのです。がんになる可能性があることを想像できない、他人事と考えている若い女性の意識を変える必要があると痛感しています。

  1. 8)厚生労働省 がん検診の国際比較 https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/campaign_29/outline/low.html(別ウィンドウで開きます)(2023年9月参照)
  2. 9)厚生労働省 令和4年国民生活基礎調査
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/06.pdf(PDFファイルで開きます)(2023年9月参照)

図2:年齢階級別の子宮頸がん検診受診率(2022年調査)

上述の非ホジキンリンパ腫の病気の進行度に基づく分類をチャートで記載

厚生労働省 令和4年国民生活基礎調査

子宮頸がん検診で「異常あり」ということは、
がんであるということですか?

子宮頸がん検診で「異常あり」という結果は、「がんが疑われる」、または「これからがんに進行する可能性のある細胞が認められた」ということです。次のステップとして精密検査を行い、異常の程度を確定させますので、速やかに婦人科を受診しましょう。なかには、精密検査の結果、異常がないこともあります。

子宮頸がんを予防するためのもう1つの方法として
HPVワクチン接種がありますが、
どのような方が接種したらよいですか?

HPVワクチンの接種で、子宮頸がんの原因であるHPVの感染を予防し、子宮頸がんの発症を予防することが期待されます。HPV感染前、つまり性交渉の経験前に接種することが効果的です。対象者である小学校6年生~高校1年生相当の女の子は定期接種として公費(自己負担なし)で受けることができます。
積極的勧奨の中断期間に定期接種の機会を逃した平成9~18年度生まれの女性も、改めて公費で接種を受ける機会が設けられています(2025年3月末まで)。
HPVワクチンの話をすると、副反応が怖いワクチンという印象をもっている方が少なくありません。しかし、HPVワクチンが重篤な症状を引き起こした可能性は低いことが立証されています10)。対象者と保護者の方にはこの点についても説明しています。
海外におけるHPVワクチン接種率は高く、カナダやイギリスなど80%を超える国もある一方、日本では2019年時点で1.9%と著しく低水準にとどまっていました11)。積極的勧奨が再開された2022年でもおそらく十数%と、HPVワクチン接種率は伸び悩んでいます。

  1. 10)Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, December 2022.WER No 50, 2022, 97, 645–672
  2. 11)Bruni L et al.: Prev Med 2021; 144: 106399

HPVワクチンには数種類あるようですが、
どのような違いがありますか?

HPVワクチンには、2価、4価、9価の3種類があります。HPVにはいくつかの種類があり、2価ワクチンは2種類のHPV、4価ワクチンは4種類のHPV、9価ワクチンは9種類のHPVの感染を防ぎます。2価、4価ワクチンでは子宮頸がんの原因の6~7割、9価ワクチンでは9割を予防できるとされています12)

  1. 12)厚生労働省:HPVワクチンに関するQ&A「HPVワクチンはどれくらい効くのですか?」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html#Q2-9(別ウィンドウで開きます)(2023年9月参照)

特に若い女性は検診を受けるのが
「恥ずかしい」、「痛いかも」といった気持ちがあり、
婦人科クリニック受診は
ハードルが高いと感じている方が少なくないと思います。
そういった方々にメッセージをお願いします。

子宮頸がんは身近な病気です。結婚・妊娠を控えている若い女性にもリスクがあります。早期に発見できれば治る可能性は高くなりますが、発見が遅れて進行してしまうと、子宮を全摘しなければならなくなったりする恐れもあります。婦人科で診察を受けるのは恥ずかしいと検診を躊躇してしまう方もいるかもしれませんが、病気があるかもしれないのに放置してしまうことで、後悔をすることのないようにしていただきたいです。失うものの大きさを考えて、婦人科に相談に来てください。

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