- 肺がんの罹患数は約12万3000人、60歳を過ぎると急激に増加
- 死亡率も年々上昇し、肺がんががんにおける死亡率第1位に
- 男性肺がん患者さんの2人に1人は喫煙者
- 肺がんの5年生存率は30%以上にまで向上
- 肺がんの病期が早いほど生存率も高い
監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科
教授 岸 一馬 先生
肺がんの罹患数は約12万3000人、60歳を過ぎると急激に増加
肺がんの罹患数(新たに診断された人数)は年々増加しており、2018年には約12万3000人(男性 約8万2000人、女性 約4万1000人)が肺がんと診断されています1)。男性の方が女性の約2倍多く、年齢があがるほど罹患率も高くなり、60歳以降になると急激に増加します。
死亡率も年々上昇し、肺がんががんにおける死亡率第1位に
肺がんは、罹患数の増加とともに、死亡率も年々、上昇しています。1998年には胃がんを抜いて肺がんが死亡率の第1位となりました。その後も死亡率は高まり、2020年には約7万5600人が肺がんで亡くなっています。男女別の死亡者数は、男性で約5万3200人(死亡率第1位)、女性で約2万2300人(死亡率第2位)となっています2)。
男性肺がん患者さんの2人に1人は喫煙者
肺がん患者さんの喫煙率は、ある調査によると肺がんの男性患者さんで55.0%、女性患者さんで16.1%と、男女ともにがんでない人に比べて高い傾向が見られます。過去の喫煙経験も含めた喫煙率は男性患者さんの方が女性患者さんよりも3倍以上高いです。
禁煙すると肺がんリスクの低下、治療効果の向上が見られるため、まずは禁煙を心がけてください。
日本ではさまざまなたばこ規制・対策が実施され、ピーク時には男性で80%以上だった喫煙率が、現在では30%以下に低下しています。それにもかかわらず、肺癌の患者数、死亡率には増加傾向が見られます。
そのため、喫煙と肺癌は関係ないのではと思われるかもしれませんが、患者数、死亡率の増加の背景には、いくつかの理由が考えられます。
患者数、死亡率が増加している理由のひとつは高齢化
理由のひとつとして、人口の高齢化が挙げられます。肺癌に限らず癌は高齢になるとなりやすくなるので、高齢化が進むと患者数も死亡率も増加します。そのため、癌死亡率の増加を調べるためには「年齢調整死亡率」がよく用いられています。これは高齢化などの年齢構成の変化を除いた死亡率です。
肺癌の年齢調整死亡率を見ると、男女ともに1995年以降は低下傾向にあります。
もうひとつの理由として、喫煙率のピークと肺癌死亡率のピークの間には30年以上の時差(タイムラグ)があることが挙げられます。これは日本だけでなく世界的に見られる傾向です。つまり、たばこを吸い続けた場合、たばこを吸い始めてから肺癌によって亡くなるまでに30年ぐらいの年月がかかると言うことです(個人差があります)1)。
いずれにしろ喫煙が肺癌と関係することは科学的にもきちんと証明されています。
肺がんの5年生存率は30%以上にまで向上
肺がんの5年生存率は、1993~1996年に診断された患者さんでは22.5%であったのに対し、2009~2011年に診断された患者さんは34.9%にまで上昇しており、肺がん患者さんの生存率の向上が見られています。
肺がんの病期が早いほど生存率も高い
生存率は肺がんの病期(ステージ)や種類によって異なります。小細胞肺がん、非小細胞肺がんともに病期が進むと生存率も低くなる傾向が見られ、より早期に診断され、治療を開始した方が生存率も高いことがわかります。
表:2013~2014年診断患者さんにおける病期別の5年生存率
病期 (ステージ) |
5年生存率 | |
---|---|---|
小細胞肺がん | 非小細胞肺がん | |
Ⅰ期 (ステージ1) |
44.7% | 84.1% |
Ⅱ期 (ステージ2) |
31.2% | 54.4% |
Ⅲ期 (ステージ3) |
17.9% | 29.9% |
Ⅳ期 (ステージ4) |
1.9% | 8.1% |
肺癌は手術可能な早期に発見されるケースは3~4割で、治療の難しい癌とされてきました。しかし最近、新たな薬の登場などにより、生存率の向上が見られています。
分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤の登場で生存率が大幅に向上
以前は肺癌に対して外科療法の他に効果のある治療がほとんどありませんでしたが、1980~1990年代にかけて癌細胞の増殖を抑える「細胞障害性抗癌薬」が登場し、薬による治療効果が見られるようになりました。その後、2002年に癌細胞増殖に関与する分子をターゲットとする「分子標的治療薬」が、2015年には癌細胞によって抑え込まれた免疫の働きを復活させる「免疫チェックポイント阻害剤」が登場し、進行肺癌の治療効果が改善しています。
実際、肺癌患者さんの5年生存率は、20年前に比べて10%以上も向上しており、今後もさらに向上することが期待されます。
周術期治療(手術の前後に追加で行う治療)の確立
薬そのものの進歩とともに、どのように薬を使うかについても、1980年代後半から多くの研究が行われてきました。
その結果、手術後に化学療法を追加で行うこと(術後補助化学療法)でその後の生存率が改善することがわかり、いまでは多くの患者さんに術後補助化学療法が行われるようになりました。
術後の補助療法として現在承認されている薬剤には、抗がん剤・免疫チェックポイント阻害剤があります。
参考文献
- 国立がん研究センターがん対策情報センター:がん登録・統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2022年5月6日) - 厚生労働省「人口動態調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月3日) - Seki T. et al.,Cancer Sci. 2013;104(11):1515-1522
- 厚生労働省 健康ネット「最新たばこ情報」
http://www.health-net.or.jp/tobacco/front.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月3日) - 国立がん研究センターがん情報サービス「部位別がん年齢調整死亡率 年次推移がん登録・統計」(人口動態統計)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2022年5月6日) - がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2013~2014年5年生存率集計 報告書
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_2013-2014.pdf(PDFファイルで開きます)(閲覧日:2022年5月6日) - がん研究振興財団:がんの統計2022, 2022年3月
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)