肺がんの治療肺がんの治療法

抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)

監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科
教授 岸 一馬 先生

全身をめぐって作用する抗がん剤治療

従来からある抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)は、がん細胞の分裂や増殖を抑えることで効果を発揮します。抗がん剤を用いた治療を化学療法と呼びます。
外科治療(手術)や放射線療法が、がんのある部位に対して治療を行う(局所療法)のに対し、抗がん剤は全身の広い範囲作用します(全身療法)。このとき、抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも作用するため、副作用が起こってきます。
抗がん剤が効果を発揮し、できる限り副作用を抑えられるように、投与スケジュールが決められています。一般的には3~4週を1サイクルとして、4~6サイクル繰り返して投与を行いますが、薬剤の種類によってさまざまです。治療は、1週間ほど入院して行う場合と、外来で行う場合などがあります。

図:抗がん剤の投与スケジュール

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 抗がん剤の投与スケジュール例 p93.金原出版.

抗がん剤治療によって起こりやすい副作用

抗がん剤にはプラチナ(白金)製剤、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬などの種類があります。どんな副作用が起こるかは、使用する抗がん剤にもよりますが、影響を受けやすいのは細胞分裂が活発な細胞です。血液を作る骨髄細胞、胃や腸の粘膜、毛根などが影響を受け、副作用が起こります。これらは、「感染症にかかりやすい」「立ちくらみ」「出血しやすい」「吐き気や嘔吐」「口内炎」「下痢・便秘」「食欲不振」「脱毛」などの症状として現れます。
また、副作用の中には、治療が終わった後も影響が残る症状もあります。自分が受ける治療でどのような副作用がいつ起こりうるのか、治療を始める前に医師や医療従事者にしっかり確認しておきましょう。

図:抗がん剤治療によって起こりやすい主な副作用

副作用には、治療の経過の中で現れやすい時期があります。つらい症状を抑える薬や日常生活の中で工夫することで症状を和らげる方法もあります。副作用がつらいときには、医師に相談しましょう。

図:抗がん剤治療による主な副作用の発現時期(イメージ)

抗がん剤治療による主な副作用の発現時期は自分でわかる副作用と検査でわかる副作用があります。
自分でわかる副作用は、頻度が高く、比較的早く発現する、急性悪心・嘔吐、アレルギー反応、血圧低下、不整脈、頻脈、呼吸困難があります。その次に頻度が高く1週間以内に発現するのは、遅延性悪心・嘔吐、食欲低下、全身倦怠感、便秘です。頻度が中程度で、1週間後から2週間の間に発現するのは口内炎、下痢です。比較的頻度が高く、4週間後と遅く発現する脱毛があります。頻度が低く、4週間後に発現する手指・足趾しびれ感、耳鳴などの神経毒性があります。
検査でわかる副作用は、頻度が中程度で、2週間以内に発現する、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害があります。頻度が高く、2週間後頃に発現する白血球・好中球低下、血小板低下などの骨髄抑制があります。頻度が低く、4週間後と遅くに発現する骨髄抑制や貧血があります。
これらは、あくまで一般的な目安で実際の発現頻度や程度、時期については個人差があります。

国立がん研究センターがん情報サービス「化学療法全般について」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html(別ウィンドウで開きます)
(閲覧日:2020年6月9日)より作成

副作用対策

抗がん剤の副作用に対して行われる治療を支持療法と言います。主な副作用に対する対策や支持療法は以下のとおりです。

表:副作用対策や支持療法

※横スクロールにて全体をご確認いただけます。

吐き気・嘔吐 制吐剤を使うことで抑えることができる
吐き気が出やすい抗がん剤を使う場合は、抗がん剤の投与前に制吐剤とステロイドを使用することもある
吐き気や嘔吐に対する不安感が強い場合は、抗不安薬を使う
下痢・便秘 下痢の場合、下痢止めを処方してもらう
便秘の場合、便秘薬を使用する、決まった時間にトイレに行く習慣をつける、水分を十分にとって軽い運動をする
手足のしびれ(末梢神経障害) 症状が現れたらすぐに医師や医療従事者に相談する
症状を緩和する薬が処方されることがある
手足を温める、マッサージをする、手指や足首の運動をするなどでも症状が軽減することがある
味覚の変化

治療終了後、時間の経過とともに回復する
塩分を苦味や金属味と感じる場合は塩分を控える
甘さを強く感じる場合は甘味を控える
うまみ、酸味の味つけを心がけたり、薬味を活用したりする

関連リンク:がんwith~食べたくなる、作りたくなる食楽レシピ~(別ウィンドウで開きます)

かゆみ・発疹 冷たいタオルなどで冷やし、汗をかいたらシャワーを浴びて清潔に保つ
刺激になりにくい繊維の衣類を選んで体をしめつけないようにする
症状がひどい場合は、症状を緩和する薬を処方してもらうことも
脱毛 治療終了後3~6か月ほどで再発毛する
かつらや帽子を利用する
治療前に髪を短くしておく
間質性肺炎 乾いた咳や息切れが続く場合はすぐに医師に相談する
治療にはステロイドが用いられる
参考文献
  • 日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019
  • 渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. 2018
  • 坪井正博監修:図解 肺がんの最新治療と予防&生活対策. 日東書院. 2016
  • 国立がん研究センターがん情報サービス:薬物療法 もっと詳しく知りたい方へ
    https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月9日)

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