おしえて先生! 子宮体がんのコト

信州大学 産科婦人科学教室 准教授 
宮本 強 先生

月経以外の性器出血は、
子宮体がんのサインかも!
気になれば婦人科に相談を。

宮本 強 先生
(信州大学 産科婦人科学教室 准教授)

インタビュー実施日:
2023年7月21日(金)
(キッセイ文化ホール 会議室)

最近、40歳未満の若い患者さんも増えている子宮体がん。初期がんに対する低侵襲手術(腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術)や妊孕性温存手術に積極的に取り組み、QOL向上、機能温存、術後合併症の減少を目指す治療に尽力されている信州大学の宮本 強 先生に子宮体がんのサイン、診断と治療について教えていただきました。

子宮体がんとはどのような病気ですか?

子宮は体部と頸部に分かれています。子宮の上3分の2の「子宮体部」は妊娠が成立する部分、下3分の1の「子宮頸部」は子宮の入り口の部分で妊娠中は固く閉じて妊娠を維持します。子宮体部にできる悪性腫瘍が「子宮体がん」です。子宮体部は妊娠時に胎児の成長に対応できるよう伸縮性のある平滑筋という筋肉の層でできていて、その内部は空洞で、子宮内膜という粘膜で覆われています。子宮内膜は、妊娠の準備のために増殖し厚くなりますが、妊娠が成立しないと剥がれ落ち、月経時に排出されます。子宮内膜には間質細胞と腺細胞があり、子宮体がんのほとんどは腺細胞から発生します。

図1:子宮の位置と構造

子宮・卵巣の構造を示したイラスト

日本婦人科腫瘍学会編:患者さんとご家族のための子宮頸がん子宮体がん卵巣がん治療ガイドライン 第3版,金原出版,2023,p.2 を参考に作成

日本において、子宮体がんの患者さんは
どのくらいいますか?

子宮体がんの発症数は近年急速に増加しています。2019年の調査で、新たに子宮体がんと診断された患者さんは17,880人となっています。閉経直前の40代半ばから増えはじめ、50代後半で患者さんが最も多くなります(図2)1)。多くのがんは高齢になるほど増えますが、子宮体がんは中年層(40~65歳)に多いことが特徴です。最近では、40歳未満の比較的若い患者さんも徐々に増えています。
子宮体がんが増加した理由は判明していませんが、妊娠回数の減少、食生活や女性のライフスタイルの変化が影響していると考えられています。

図2:年齢階級別の子宮体がん罹患率(2019年調査)

2019年調査の年齢階級別の子宮体がん罹患率

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

子宮体がんになると、どのような症状がみられますか?

子宮体がんで最も多くみられる症状は「不正性器出血」です。約90%の患者さんに認められ、比較的早い段階から現れる、わかりやすい症状です2)。そのため早期に受診される方が多く、日本では約80%と大部分の患者がI, II期の早期がんで発見されています3)。月経以外の出血はすべて不正性器出血とされ、閉経後の性器出血も該当します。月経時の出血は、1~2日目に多くなり1週間ほどで終わるといった出血パターンとなりますが、不正性器出血はそれとは異なりだらだらと出血が続いたり、少量の出血が不定期にみられたりします。子宮体がんの早期発見のためには不正性器出血がありましたら、見過ごさず、早めに婦人科を受診することが大切です。
また、不正性器出血以外では、下腹部痛が主な症状です。

  1. 2)Clarke MA, et al.: JAMA Intern Med 178(9): 1210-1222, 2018
  2. 3)日本産科婦人科学会腫瘍委員会報告 2020年患者年報 日産婦誌74巻11号p2345-2402, 20222

特に症状はないのですが、
子宮体がんの検査は必要ですか?

子宮頸がんの早期発見のために20歳以上の女性を対象とし2年に1回のがん検診が推奨されています。一方、子宮体がんは、無症状の方に検診を行っても死亡率の低下や医療費削減の効果が認められていません4)。また、子宮体がん検診の検査(子宮内膜細胞診)では、子宮内に細い棒状の検査器具を深く挿入して細胞を採取しますが、その際に苦痛を伴う場合や、痛みにより血圧が低下するなどの危険性があります。このため、自治体での子宮体がん検診は行われていません。一方、人間ドックや婦人科クリニックでの検診ではオプションとして子宮体がん検診が取り入れられていることがあります。
また、子宮体がん検診の検査は偽陰性率(がんがあるのに誤って陰性と判定される確率)が子宮頸がんの検査よりも高く、正診率が低いという問題があります。このため、直近の子宮内膜細胞診が陰性であったとしても、その後に不正性器出血がある場合には、子宮体がんの可能性を考えて、産婦人科を受診することが最も重要です。

  1. 4)日本産婦人科学会:産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020 CQ210(p54-55)

子宮体がんになる原因について教えてください。
また、子宮体がんになるリスクが高いのは
どのような方ですか?

月経周期の前半の排卵までの間は、卵巣では排卵に向かう卵の袋(卵胞)が発育します。そこから分泌される女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)は、子宮内膜の細胞を増殖させ、子宮内膜を厚くする働きがあります。排卵後は、卵胞は黄体に変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン)が多量に分泌されるようになります。プロゲステロンはエストロゲンの作用に拮抗し、子宮内膜の増殖を止めます。そして排卵から約2週間後、プロゲステロン分泌量の低下とともに厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちます。これが月経です。子宮内膜に異常な細胞ができてもプロゲステロンにより増殖を止められ、さらに月経により排除されます。そのため、プロゲステロンは子宮体がん発症を抑制し、月経周期が正常な方は子宮体がんになりにくいことが知られています。一方、月経不順がある場合や閉経周辺時期(45~65歳)には、排卵が起こらず黄体も形成されない時期が持続する、つまり、プロゲステロンが働かずエストロゲン刺激が持続した状態が続くため、子宮体がんが発症しやすいと考えられています。また、子宮体がんは肥満であるほど発症率が上昇することが知られています。そのため、メタボリック症候群関連(肥満、糖尿病、高血圧、低運動量)ではリスクが上昇します5)

  1. 5)日本婦人科腫瘍学会:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン第3版(金原出版) p78-81, 2023

子宮体がんの予後について教えてください。

2019年の調査で子宮体がんと診断された患者さんは17,880人、死亡された方は2,644人と報告されています1)。子宮体がん全体の5年生存率は約81%で、すべてのがんの5年生存率である約67%と比べると、子宮体がんは比較的予後が良好だといえます6)。がん全般にいえることですが、早期に発見し病期が早いほど、治癒しやすいです。がんは進行度によりステージⅠからⅣまで大きく4段階に分けられますが、ステージⅠの子宮体がんの生存率は約95%と高く、ステージが進行するにつれて生存率は低下し、他の臓器への転移がみられるステージⅣでは30%程度に低下します3)

  1. 6)国立がんセンターがん情報サービス「地域がん登録によるがん生存率データ(1993年~2011年診断例)(5年生存率)」

子宮体がんの診断はどのようなことをしますか?

不正性器出血がある場合や、子宮内膜細胞診などで子宮体がんが疑われる場合は、「子宮内膜組織診」を行い子宮体がんの診断を行います。子宮内膜組織診では、吸引採取器具や小さい匙のような器具を用いて子宮内膜組織を採取し、顕微鏡による病理診断を行います。
組織診で子宮体がんと診断された場合、原則として患者さんご本人に告知しながら、子宮体がんという疾患について説明していきます。子宮体がんはがんの中では比較的治療しやすく、予後も良好であることを説明し、治療に前向きになってもらうよう努めています。

子宮体がんと診断された後、
どのように治療を決定していくのでしょうか。

子宮体がんも他の多くのがんと同様に、病期や組織型によって治療方針が異なります。リンパ節転移や肺や肝臓などの他臓器への転移の有無をみるためにCT検査を、がん組織が子宮の壁にどれくらい潜り込んでいるか(筋層浸潤)をみるためにMRI検査を行い、病期を推定します。子宮体がんの治療の基本は、手術での摘出(子宮全摘術、両側卵巣・卵管摘出術)になります。リンパ節などをどこまで切除範囲に含めるかは、後述の妊孕性(妊娠する能力)温存などの希望や年齢・病期などを考慮して決定していきます。

手術の際には、IA期の場合には腹腔鏡手術やロボット支援下手術といった、低侵襲手術(体への負担が少ない手術)を選択することもできます。入院期間は摘出範囲などによって異なりますが、低侵襲手術では術前・術後合わせて1週間程度、開腹術では10日程度と考えられます。手術後、再発のリスクが高い場合や手術が困難な場合は抗がん剤による薬物療法や放射線療法を行います。

子宮体がんの治療は基本的に手術とのことでしたが、
妊娠・出産はあきらめるしかないのでしょうか?

1つ前の回答にあるように、子宮体がんの手術は腫瘍のある子宮を全て摘出することが基本です。しかしその場合、妊孕性(妊娠する能力)は失われます。最近では、閉経前の若い世代でも子宮体がんにかかる患者さんが増えており、妊娠年齢の上昇傾向と併せて、子宮・卵巣を温存して妊娠する能力を残すこと(妊孕性温存)を希望する患者さんも増えてきています。

このような場合、子宮内膜の粘膜内にがんがとどまっている、ホルモン療法に反応しやすいタイプであるなど、いくつかの条件を満たせば、妊孕性を保ちつつ黄体ホルモン療法によるがんの治療を進めることができます。妊孕性を温存しながらの治療は、子宮体がんの標準治療である子宮全摘出術と比較して、再発率が高いとされています7,8)。そのため、将来の妊娠・出産を希望する患者さんには、それらのリスクや黄体ホルモン療法の副作用リスクを十分理解していただいたうえで、妊孕性を温存するかどうかを相談しながら決めていきます。

  1. 7)日本婦人科腫瘍学会:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン第3版(金原出版) p114-117, 2023
  2. 8)日本婦人科腫瘍学会編:子宮体がん治療ガイドライン2023年版 CQ27 p163-167

子宮体がんが多く見られる、
特に50代女性に向けてメッセージをお願いします。

不正性器出血は、子宮体がんの危険を示す「赤信号」だと思ってください。子宮体がんの好発年齢である50代は、家庭でも職場でも中心人物として一生懸命な時期で、不調があっても自分のことは後回しにしがちです。不正性器出血があってもそのまま放置してしまう方も少なくありません。しかし、責任ある立場にあるからこそ、不正性器出血を放置せず、婦人科をすぐに受診していただきたいと考えています。

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