絨毛性疾患

監修

近畿大学医学部 産科婦人科学教室 教授

松村 謙臣 先生

子宮・卵巣にまつわる病気

絨毛性疾患

妊娠時に子宮内に作られる胎盤において、胎盤を構成する絨毛細胞が異常に増殖する病気を総称して絨毛性疾患といいます。
妊娠をきっかけに発症することが多く、胞状奇胎、絨毛がん、中間型トロホブラスト腫瘍の3つに大別されます1)

胞状奇胎

異常な受精が原因で、胎盤の絨毛がぶどうのような粒状に変化するものです。胎児は正常に発育することはできません。

絨毛がん

絨毛から発生する腫瘍で、胞状奇胎に続いて発症することが多いですが、正常分娩や流産などすべての妊娠に続いて起こる可能性があります1)

中間型トロホブラスト腫瘍

絨毛細胞のうち、中間型栄養膜細胞(トロホブラスト)という細胞が異常に増殖することで腫瘍化するものです。

  • 1)日本婦人科腫瘍学会 編:子宮体がん治療ガイドライン 2018年版, 2018, 金原出版, P203-219

胎盤を構成する絨毛細胞の場所をイラストで解説

絨毛性疾患の症状

この疾患に特徴的な症状はありませんが、つわりや無月経などの妊娠時の兆候、不正出血、高血圧、むくみなどがあります。

絨毛性疾患の疫学

絨毛性疾患の中で最も多いものは胞状奇胎で、2017年の調査では全国で900件弱が報告されています。他の疾患は非常にまれであり、同調査では絨毛がんは8件、胎盤性トロホブラスト腫瘍は1件の報告がありました2)
なお胞状奇胎の発生数は近年緩やかに上昇しており、2008年には1.02/1,000出生の割合で発生していたものが、2015年には2.05/1,000出生となっています。これには、妊娠年齢が高齢化していることが関与している可能性が考えられるとされています3)

  • 2)八重樫伸生:日産婦誌 2020;72(7):857-60.

  • 3)山本英子ほか.:日本臨牀.2018;76(suppl.2):737-42.

絨毛性疾患の検査

胞状奇胎は異常妊娠として扱われ、妊娠初期(2~3カ月)の経腟エコー検査でその徴候が認められますが、正確な診断は手術後の病理検査の結果で決まります。
絨毛がんは、胞状奇胎を経験している場合に発症するリスクが高くなり4)、妊娠していないのにhCGホルモンが高値を示すことが診断のポイントです。
中間型トロホブラスト腫瘍は、エコー検査やMRI、血液検査などの結果で判断されますが、正確な診断には子宮摘出後の病理検査が必要です5)

※妊娠検査として測定できるホルモン

  • 4)Martin BH, et al.: J Reprod Med.1998;43:60-68.

  • 5)新美薫ほか.:日本臨牀 2018;76(suppl 2):768-73.

絨毛性疾患の治療

胞状奇胎の治療は、子宮内容除去術が第一選択です。胞状奇胎の患者さんは、その後に侵入奇胎という病気に進展することがあり、またまれに絨毛がんを発症することもあるため、手術後は定期的に通院し、これらの病気が起きていないかをしっかりチェックすることが重要です。
通院の頻度は、術後3カ月は1~2週間ごと、その後は1カ月に1回程度の頻度で血液検査を受け、正常値が6カ月継続したら次回の妊娠が許可されます。その後も、4年間程度は3~4か月に1回程度の血液検査を受けることが推奨されます6)
侵入奇胎は胞状奇胎の細胞が子宮の筋肉内に侵入した状態のことで、将来的に絨毛がんに進展する可能性があるものです。もし侵入奇胎と診断されたら、抗がん剤を用いてしっかり治療するようにしましょう。この治療が将来の妊娠に影響する可能性は低いとされています6)

上述の絨毛性疾患の治療の流れをチャートで解説
  • 日本婦人科腫瘍学会:患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん
    治療ガイドライン 第2版, 2019, 金原出版, p135より作図.

絨毛がんは転移しやすいものの抗がん剤がよく効くがんとされており、最初の治療から複数の抗がん剤を併用することが推奨されています。さまざまなお薬の組み合わせがありますが、どの治療法でも寛解率は80%程度です6)

中間型トロホブラスト腫瘍の治療の第一選択は、子宮全摘出術です。化学療法の効き目はあまり良くない、とされています1)

  • 6)日本婦人科腫瘍学会:患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん
    治療ガイドライン 第2版, 2019, 金原出版, p132-143.

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