おしえて先生!肝がんのコト

坂本 直哉先生

(北海道大学大学院医学研究院 内科学講座消化器内科学教室 教授)

肝がん治療の決め方と向き合い方

―患者さん・ご家族・医療者でともに考える治療選択―

坂本 直哉先生

(北海道大学大学院医学研究院 内科学講座消化器内科学教室 教授)

北海道大学大学院医学研究院 内科学講座消化器内科学教室 教授 坂本 直哉先生

北海道全域から患者さんを受け入れている北海道大学病院では、がん領域において診療科横断のチーム体制のもと、手術、放射線、薬物療法を組み合わせた集学的ながん診療を行い、がん診療連携拠点病院としての役割を担っています。今回、消化器内科学教室 教授 坂本直哉先生に、肝がん治療を進めるなかで重要となるポイントについて伺いました。

※地域のがん医療の連携の拠点となり、専門的ながん医療の提供、がん診療の連携協力体制の整備及び患者への相談支援や情報提供などの役割を担う病院
引用:北海道庁ホームページ「がん診療連携拠点病院とは」https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gan_kyoten.html(閲覧日:2026年4月6日)(別ウィンドウで開きます)

肝がんの治療は、どのように決めていくのですか?

近年のがん診療ではShared Decision Making(SDM:共同意思決定)の考え方が重視されています。これは、医療者が治療の選択肢や効果、副作用、病状の見通しを共有し、患者さんやご家族と話し合いながら、最適な治療を決定していくプロセスです。
肝がんは、ステージ(病期)や患者さんの状態によって治療の選択肢が多く、ひとつの治療で完結しないことが少なくありません。治療歴によっても、次の治療が異なります。(詳しくは治療の流れをご参照ください)
そのため、治療経過や生活背景、経済的な点も含めて医療者と患者さん、ご家族とで話し合いながら治療方針を決めていくことが重要です。

肝がんの治療を考えるとき、何を基準に判断するのでしょうか?

こうした肝がん診療の複雑性を背景に、2025年にヨーロッパの研究グループから、肝がんに特化したSDMの考え方としてCUSE(キューズ)という枠組みが提唱されました1)
がん治療は国や地域によって医療体制が異なり、保険制度や医療資源、患者さんの社会的・経済的状況によって、選択できる治療が変わることがあります。そのため治療方針を決定する際には、治療のエビデンスだけでなく、医療体制や患者さん個々の社会的・経済的背景なども含めて考える必要があります。

CUSEについてくわしく教えてください。

CUSEは、こうした肝がん診療の特徴を踏まえ、治療方針を検討する際に把握すべき医療側の条件と患者さん側の条件を整理するための概念です(図1)。これらの要素を総合的に考慮しながら治療方針を決定し、治療経過に応じて見直していくための枠組みとして提案されています。
現在ヨーロッパでは、CUSEを治療方針決定の補助としてAIを活用する試みも進められており、日本においても臨床での活用に向けた検討が進められています。

図1 CUSEを構成する要素​
4つの要素で医療の意思決定の特徴を示した図。C(complexity:多様性)。肝がんの病因が多様である。治療選択肢が他のがんと比べて多い。地域や人種でエビデンスが異なるなどの多様性。U(uncertainty:不確実性)。ある治療の効果が条件によって左右される。ある条件下での治療効果に関するエビデンスが限られるなどの不確実性。S(subjectivity:主観性)。患者ごとの価値観や経済状況、家族背景。背景疾患およびその経過。患者が希望する治療や今後の生活などの主観性。E(emotion:感情)。患者の不安感や個人的な希望などの感情。

1)Reig M, et al. J Hepatol. 2025 Oct 27:S0168-8278(25)02571-1.

肝がんと他の臓器のがんでは、
診療の考え方にどのような違いがあるのでしょうか?

肝がんの大きな特徴は、肝硬変などによって肝機能が低下した状態を背景に発生する点にあります。そのため肝がんの診療では、がんそのものだけでなく、肝機能も考慮して治療方針を決める必要があります。
がんが進行すると肝機能がさらに低下し、本来行うべき治療が選択できなくなる場合もあります。加えて、薬物療法の副作用に耐えられるかなども考慮しながら、治療方針を見直していく必要があります。
一方で治療効果が得られた場合にはこれまで選択肢ではなかった治療も選択肢になる場合もあります。
このような背景から、CUSEを用いたSDMは一度で完結するものではなく、治療効果や病状の変化に応じて、医療者と患者さん、ご家族とともに見直していくことが重要です。

治療を続けていくために、
どのような家族のサポートや制度の活用ができますか?

患者さんをよく知るご家族には、患者さんの希望を理解しながら、次の治療をどうするかといった治療選択の場面でサポートしていただくことが期待されます。また肝がんの治療では、がんの進行による症状だけでなく、肝機能の低下による肝不全症状や薬物療法の副作用などがみられることがあり、こうした変化に早く気づくという点でも、ご家族のサポートは重要です。
がん治療は高額になる場合もあり、治療費に不安を感じる方も少なくありません。B型・C型肝炎ウイルスによる肝炎が原因の場合には、国の「肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業」による医療費助成制度を利用できることがあります。また、肝疾患診療拠点病院の「肝疾患相談センター」では治療や医療費などの相談が可能であり、こうした制度の活用も大切です。

肝がん治療中の患者さんとご家族へ

がん治療というと、「薬の治療が効かなくなったらもう治療が続けられないのでは」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、肝がんでは治療の選択肢が比較的多く、ある治療が効果を示さなかった場合でも、次の治療につながることがあります。なかには、以前効果がみられなかった治療に再度取り組むことで、効果が得られるケースもあります。これまで難しいと考えられていたケースでも、病状の経過が良くなることが期待できる時代になってきています。医師とよく相談しながら、長期にわたる治療をあきらめずに続けていくことが大切です。

1)Reig M, et al. J Hepatol. 2025 Oct 27:S0168-8278(25)02571-1.

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