健康診断の“肝臓からのサイン”を見過ごしていませんか?
ー肝がんを防ぐために知っておきたいことー
竹原 徹郎先生
(関西労災病院 病院長)

兵庫県尼崎市にある関西労災病院は、阪神エリアで高度急性期医療を担う医療機関として、さまざまな専門的取り組みを行っています。今回は、地域がん診療連携拠点病院として中心的な役割を果たす同院の病院長であり、消化器内科医として多くの肝疾患診療に携わってきた竹原徹郎先生に、肝がんについて知っておきたい基本を伺いました。
肝がんは何が原因でできるのでしょうか?
肝臓にできるがんには、肝臓から発生する「原発性肝がん」と、他の臓器のがんが転移した「転移性肝がん」があります。「原発性肝がん」は、主に肝臓の細胞からできる肝細胞がんと、肝臓内の胆管からできる肝内胆管がんに分かれ、約9:1の比率で肝細胞がん(以降、肝がん)が大多数を占めています1)。
肝がんの原因として、かつてはB型・C型肝炎ウイルスを起因とする肝がんが多くを占めていたのですが、近年減少傾向にあり、今では、アルコール性の肝炎から生じる肝がんと、アルコールとは関係なく、肥満や運動不足、糖質・脂質の多い食生活などが原因の肝炎(MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎)から生じる肝がんが増えています。これらの多くは、脂肪肝を起点として進行した肝疾患が背景にあります。(詳しくは肝がんの原因をご参照ください)
実際に、アルコール摂取に伴う発がんにおいて肝がんは2番目にリスクの高いがんであることや(図1)2)、非アルコール性脂肪肝に伴う発がんのおよそ1/3が肝がんであること(図2)3)が示されています。
- 対象
- GLOBOCAN 2020 に基づく世界のがん罹患データ
- 方法
- 疫学研究に基づくアルコール摂取とがんリスクの推定値から、Population Attributable Fraction(PAF)を算出し、アルコールに起因すると推定されるがん症例数を算出
Rumgay H, et al. Nutrients 13: 3173, 2021
- 対象
- 国内の共同研究グループであるJSG-NAFLDにおいて、1994年12月1日から2020年12月31日の間に肝生検によってNAFLDが確認された日本人患者1398例
- 方法
- 対象患者を2021年3月31日まで追跡し、死亡、肝関連イベント、心血管疾患、脳卒中、肝がん以外のがんを特定した。新規発がん患者におけるがん腫の内訳を算出した。
- 研究の限界
- 特定の治療プロトコルの欠損、非肝硬変患者における内視鏡評価のフォローアップや画像診断の不足により、肝関連イベントの発生件数は過小評価されている可能性がある。本研究の追跡期間は他の複数の研究よりも短かった。個々の読影者内の評価のばらつきを完全に排除することはできなかった。本研究では、日本人の約2割に存在し、NAFLD/NASHの発症と進行に関連するとされるPNPLA3遺伝子多型については評価されなかった。
NAFLD:非アルコール性脂肪性肝疾患 NASH:非アルコール性脂肪性肝炎
Fujii H, et al.: Clin Gastroenterol Hepatol. 21(2):370-379.2023より作図
肝がんは何をきっかけに発見されることが多いのでしょうか?
C型・B型肝炎や他の肝疾患で治療中の方、C型肝炎の治療は終了したけれども経過観察されている方の場合は、定期検査により、肝がんが早期で見つかるケースが多いです。健康診断などで脂肪肝が見つかり、定期的に受診されているような方も同様です。いずれの場合も、がんが小さいうちに見つかるので、ラジオ波焼灼療法(RFA)などの局所治療や手術といった根治的治療が可能になり、肝がんのない状態(根治)を目指すことができます。(詳しくは肝がんの治療をご参照ください)
一方、糖尿病のある方では、各種がんのなかで肝がんによる死亡リスクが最も高いことがわかってきました(図3)4)。こうした認識が糖尿病診療に携わる医師の間にも広がり、早期発見の機会が増えてきていると感じています。
- 対象
- 日本の9施設の2型糖尿病外来を受診した日本人2型糖尿病患者5,642例のうち、3,999例を平均4.5年間追跡
- 方法
- 縦断的多施設共同コホート研究。2型糖尿病患者における予測死亡数を日本の一般人口(GP)における年齢別死亡率を用いて推定し、2型糖尿病患者と一般人口の死亡率を比較するため、標準化死亡比(SMR)を算出した。
- 研究の限界
- 本研究の対照群は日本の全国データベースから抽出された患者であり、2型糖尿病群と対照群の時間軸での比較はできなかった。追跡期間が短い。本コホートは、糖尿病専門医による治療を受けており、一般集団を対象としたコホート研究より死亡率が低い可能性がある。
Shima T, et al. J Gastroenterol 54:64-77, 2019より作図
どんな人が肝臓の検査を受ければよいでしょうか?
2023年、健康診断の検査値に基づき、肝臓の検査値の1つであるALTが30U/Lを超えている場合には、かかりつけ医を受診しましょうという取り組みを日本肝臓学会としてスタートさせました。(詳しくは奈良宣言2023をご参照ください)
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)はアミノ酸の代謝を担う重要な酵素で、肝細胞が傷つくと血液中に放出されます。肝臓以外から漏れてくることはないため、数値が高い場合には、肝臓の細胞に負担や炎症が生じている可能性があることを示しています。ALTが正常値でなくなった早い段階で受診し、その原因を突き止め、必要に応じた治療を行うことが、肝疾患や肝がんの発生を防ぐうえで重要です。
健康診断などで脂肪肝を指摘された場合には、一度詳しい検査を受けていただくことが大切です。経過観察でよいと判断される場合は年1回の健康診断でフォロー可能ですが、精密な評価が必要な場合には、肝臓専門の医療機関の受診が勧められます。
肝がんのリスクがある人は、
どのような検査を定期的に受けるのでしょうか?
B型肝炎やC型肝炎、脂肪肝などの慢性的な肝臓の病気がある方では、肝がんの早期発見を目的として定期的な検査が行われます。こうした定期的な見守りの検査を「サーベイランス」といいます。一般的には、腹部超音波検査(腹部エコー)や血液検査を定期的に行い、肝臓に新たな変化がないかを確認します。もし検査で気になる所見が見つかった場合には、CTやMRIなどの精密検査を追加して、詳しく調べていきます。(詳しくは肝がんの検査をご参照ください)
肝がんは治る病気ですか?
早期に見つかった肝がんは治すことが可能になっています。しかし、肝臓は成人で1kg以上もある大きな臓器で1)、肝がんは慢性の肝臓病をベースに発生してくるため、1ヵ所の肝がんを治療できたとしても、肝臓の他の所から新たにがんが発生してくる場合があります。そのため再発しやすいがんではありますが、再発しても早い段階で見つけることで、状態に応じて治療を重ねていくことが可能です。
また、根治が難しい場合であっても、近年は肝がんに対する薬物治療の選択肢が増えており、治療によってがんの進行を抑えたり、患者さんの状態によっては縮小がみられたりするケースもあります。
一方で、再発や進行に対する治療を継続していくためには、肝臓の機能を保つことが非常に重要です。そのため、治療中は飲酒を控えるなど、肝臓への負担を減らす生活管理が欠かせません。
肝疾患が気になる方へ
肝がんは多くの場合、自覚症状がほとんどないまま、肝臓の病気を背景として発生します。肝臓の病気は自覚症状がほとんどないため、健康診断で脂肪肝や肝臓の検査値の異常を指摘されても、そのまま様子を見てしまう方も少なくありません。せっかく検査や健康診断を受けたのですから、必要に応じて詳しい検査を受けていただくことが大切です。
気づかないうちに時間が経ち、肝疾患のリスクが高まっていくこともあります。自分の肝臓の状態を一度きちんと確認し、早い段階で適切な対応をしていくことが大切です。
- 1)国立がん研究センター がん情報サービス:肝臓がん(肝細胞がん)https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/print.html(閲覧日:2026年2月25日)(別ウィンドウで開きます)
- 2)Rumgay H, et al. Nutrients 13: 3173, 2021
- 3)Fujii H, et al.: Clin Gastroenterol Hepatol. 21(2):370-379.2023
- 4)Shima T, et al. J Gastroenterol 54:64-77, 2019