監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科
教授 岸 一馬 先生
肺がんの放射線療法
放射線療法は、放射線でがん細胞のDNAを傷つけ、がん細胞を死に至らせる治療法です。放射線はがんの病巣に集中して照射することができるため、全身的な影響や手術に比べて体への負担が少なく、手術や薬物療法を行えない患者さんや高齢の患者さんでも行うことが可能です。
放射線療法はがんの根治の他、痛みの緩和なども目的
放射線療法は、がんを根治するために行われる他、がんの痛みやがんによって引き起こされている症状を和らげたり、がんが大きくなって引き起こすかもしれない症状や再発を予防したりする目的でも行われます。
表:目的別にみた放射線療法
根治的治療 | がんの完治を目指す。 |
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緩和的治療 | がん自体が引き起こす痛みを取り除く。がんが気道や食道、血管などを圧迫することで起きている症状を取り除く。 |
予防的治療 | がん病巣が大きくなると起こるかもしれない症状を防ぐ。脳への転移による再発を減らす。 |
放射線療法を用いた根治的治療の対象となる肺がん
- 小細胞肺がんのうち限局型(がんが片方の肺と近くのリンパ節内にとどまっている)
- 非小細胞肺がんの病期Ⅰ期~Ⅲ期(ステージⅠ~Ⅲ)のうち何らかの理由で手術が行えないもの
放射線療法のみを用いて根治的治療を行う場合と薬物療法と放射線療法を併用して根治的治療を行う場合があります。
放射線による影響は癌と正常組織で異なる
放射線は、癌だけでなく、体の正常な組織にも影響を及ぼします。放射線によって損傷を受けるのが癌細胞であれば、その影響は「効果」となりますが、損傷を受けるのが正常な組織であれば「副作用」と呼ばれます。
現在では、正常な組織を避けて癌の病変に集中して放射線を照射するための技術が進歩しており、臓器の形態を温存し、正常な機能を損なわないように放射線療法を実施できるようになっています。また、癌と正常な組織では放射線の影響の受けやすさが異なり、癌の方が正常な組織よりも少ない放射線の量(線量)で影響を受け始めます。この点を利用して「癌に対する効果は高いが正常な組織への損傷(副作用)は少ない」線量を照射することで、効率の良い治療を行うことができます。
放射線療法の流れ
担当医から放射線療法を勧められたら、紹介された放射線腫瘍医の診察を受けます。放射線腫瘍医は、がんの進行の程度や各種の検査結果の他、患者さんの体力なども考慮して、治療方針を決定します。
放射線療法を行うと決まったら、最適な照射の範囲や方向、線量などを計画しておくために、CTを撮影します。実際に放射線療法を実施するときと同じ姿勢でCTを撮影して、がんと正常な組織の三次元的な位置関係を把握することによって、精密な治療計画を作っていきます。またCT撮影時には、治療計画どおりに照射できるよう、皮膚の表面に印をつけておきます。
放射線の照射は、診療放射線技師のもと、高エネルギーX線を放射する装置「高精度直線加速器(リニアック)」を使用して行います。患者さんは治療台に横たわり、治療計画を立てた際に皮膚につけた印に合わせて、適切な方向から放射線が照射されます。放射線を照射しても痛みは感じないので、麻酔は不要です。
放射線療法が終わってしばらくたってから、放射線の効果や副作用が現れることがありますので、放射線療法が終わっても経過観察を受けます。
放射線療法の種類
放射線療法の効果を高めるための方法には、
- ①がんの病巣に高線量を集中して照射する
- ②がん細胞が増殖しないよう、短期間のうちに照射を終える(がん細胞は照射期間中も増殖するため)
- ③放射線療法の効果を化学療法などで強める
などがあります。
①の「がんの病巣に高線量を集中して照射する」方法は進歩しており、「定位放射線治療」と言う方法では、誤差が数mm以内の精度でのピンポイント照射が可能で、早期の肺がんに用いられています(表)。最近では、高精度直線加速器(リニアック)から発生する高エネルギーX線の他に、陽子線や炭素イオン線などの「粒子線治療」も、先進医療として行われています(日本では保険診療としては認められていません)。
病状が進んで照射が必要な範囲が広がると、ピンポイントの照射では対応できなくなるため、病変の形や位置に合わせた「三次元原体照射」が行われます。これよりもさらに複雑な形に対応できる照射法である「強度変調放射線治療(IMRT)」も行われるようになっています。
表:放射線療法の種類
※横スクロールにて全体をご確認いただけます。
定位放射線治療 |
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三次元原体照射 |
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強度変調放射線治療 |
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粒子線治療 |
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放射線療法の副作用
放射線療法では、副作用を軽減できるように治療計画を立てるものの、正常な細胞にも放射線が照射されることが避けられずに、副作用が現れることがあります。副作用は主に放射線が照射された部位に生じます。主なものとして、皮膚炎、食道炎、肺臓炎、脊髄炎が挙げられます(表)。
表:放射線療法の副作用
※横スクロールにて全体をご確認いただけます。
早期(治療中・治療終了直後)に起こる副作用 | |
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皮膚炎 |
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食道炎 |
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肺臓炎 |
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貧血、感染しやすい、出血しやすい など |
晩期(治療終了後、半年から数年後) | |
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脊髄炎 |
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肺線維症 など |
参考文献
- 日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2023年版.金原出版.2023
- 渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. 2018
- 国立がん研究センターがん情報サービス:放射線治療の基礎知識
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/rt_01.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2024年5月20日)