肺がんの治療肺がんの治療法

免疫チェックポイント阻害剤とは

免疫チェックポイント阻害剤とは?

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞による攻撃を逃れるしくみ(ブレーキ)に働きかけ、免疫細胞の力を回復させる(ブレーキを解除する)、新しいタイプの治療薬です。
そもそも私たちの体には、「自己(自分の体の細胞)」と「非自己(細菌やウイルス(病原体)などの異物)」を区別し、非自己を排除する「免疫」と言うしくみが備わっています。これは、白血球やリンパ球などの免疫細胞が異物を攻撃し、体を守ると言うしくみです。免疫細胞は、がん細胞も異物として攻撃し、がん細胞の増殖を防いでいるのです。

図:免疫の働き(正常な免疫細胞による免疫のしくみ)(イメージ)

一方、この異物を排除する力が強くなりすぎると、自分の体を攻撃してしまい、自己免疫性疾患やアレルギー疾患といった病気を引き起こします。そのため、免疫細胞は、自らの免疫力を調節する(異物の排除のために免疫力を強めたり(アクセルをかける)、抑えたり(ブレーキをかける)する)しくみが備わっており、このうち免疫力を抑える(ブレーキをかける)しくみを「免疫チェックポイント」と言います。
一部のがん細胞は、この免疫チェックポイントのしくみをうまく利用し、免疫細胞にブレーキをかけることで、免疫細胞の攻撃から逃れていることがわかってきました1)
そこで、このがん細胞がかけているブレーキを解除し、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を回復させるのが免疫チェックポイント阻害剤です。

  1. 1)片岡圭亮ほか:実験医学 35(4):541-5, 2017.

図:免疫チェックポイント阻害剤の働き(イメージ)

肺がんの治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤にはいくつか種類があります。肺がんの治療には、PD-L1と言うタンパク質ががん細胞に多く見られる患者さんでは、「PD-L1阻害剤(抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体、ヒト型抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体)」や「PD-1阻害剤(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体、ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)」と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いとされています2)。PD-L1ががん細胞に見られるかを調べるためには、がん細胞の組織標本を用いたPD-L1免疫染色と言う検査が行われます。
また最近では、免疫細胞のひとつであるT細胞に発現するタンパク質であるCTLA-4に着目した、「CTLA-4阻害剤(ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体)」と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤も、他のお薬との併用で使われるようになりました。
これらの薬剤は主に、非小細胞肺がんのⅣ期(ステージⅣ)、非小細胞肺がんの再発、転移の治療に使用されます。
さらにPD-L1阻害剤は、非小細胞肺がんの手術後に追加する治療、あるいは手術が適応とならないⅢ期(ステージⅢ)の非小細胞肺がんの治療、進展型小細胞肺がんの治療などに使われます。

  1. 2)日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019, p106

このページのTOP

免疫チェックポイント阻害剤治療によって起こる特有の副作用

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞にかけているブレーキを解除し、免疫細胞の攻撃力を回復させるため、免疫が強くなりすぎることによって副作用が現れる可能性があります。この免疫に関連する副作用は、皮膚、消化管、肝臓、肺、甲状腺などのホルモン産生臓器でよく見られますが、腎臓や神経、筋肉、眼にも現れることが報告されており3)、全身のどこにでも副作用が生じる可能性があります。

  1. 3)日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019, p108

図:免疫チェックポイント阻害剤治療による副作用が見られやすい全身の部位

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. p102. 金原出版.より作図

免疫チェックポイント阻害剤治療による副作用には、間質性肺炎(初期症状として息切れ、痰の出ない空咳、発熱など)、大腸炎(下痢や黒い便を含む血便、腹痛)、1型糖尿病(口が渇く、水分を多くとる、尿量が増える)、甲状腺機能障害などのホルモン分泌障害、肝・腎機能障害、皮膚障害、重症筋無力症(まぶたが下がったまま戻らない、手足に力が入らない、食べ物がうまく飲み込めない、呼吸が苦しいなど)、筋炎・心筋炎(疲れやすい、だるい、筋肉が痛む、発熱、咳、胸の痛みなど)、ブドウ膜炎などがよく報告されています2)。症状の現れ方は患者さんによって異なりますが、現れやすい副作用の種類や症状をあらかじめ知っておくことは、副作用の早期発見と対処に役立ちます。
免疫に関連した副作用の多くは、比較的早い時期(治療開始後約2か月以内)に起こりやすい傾向がありますが、薬剤の投与が終わった後、数週間~数か月経過してから起こることもあります。治療薬を変更した後でも、いつもと違う症状に気づいたら、早めに医師や医療従事者に相談しましょう。

図:主な副作用によって見られる症状

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. p102. 金原出版.より作図

がん免疫療法をわかりやすく解説

「PD-L1」は本来、体内のさまざまな正常細胞の表面に発現するタンパク質です。一方で、免疫細胞(リンパ球のT細胞)の表面には「PD-1」や「CTLA-4」と言うタンパク質が発現しています。これらは、過剰な免疫を抑える「免疫チェックポイント」のしくみに関わる「免疫チェックポイント分子」の代表的なものです。例えばPD-L1とPD-1は鍵と鍵穴の関係にあり、この2つが結びつくと、T細胞の働きにブレーキがかかります。これにより、過剰な免疫を抑えて体を守るのが、本来のPD-1/PD-L1の生理的な役割です。

図:通常の免疫抑制のしくみ(イメージ)

しかし、一部の癌細胞も、自身の表面にPD-L1を持っており、T細胞のPD-1と結合することができます。PD-1と結合した癌細胞は、免疫にブレーキをかける信号をT細胞に送ることで、通常であれば異物としてT細胞から受けているはずの免疫の攻撃から逃れているのです。

図:癌細胞による免疫抑制のしくみ(イメージ)

免疫チェックポイント阻害剤のPD-L1阻害剤は、癌細胞表面のPD-L1に結合します。また、PD-1阻害剤は、T細胞表面のPD-1と結合します。そうすることで、いずれの薬剤も、PD-L1とPD-1が結合するのを防ぎ、癌細胞によるブレーキを解除して、癌細胞に対する免疫細胞の攻撃を回復させます。

図:PD-L1阻害剤/PD-1阻害剤による癌治療のしくみ(イメージ)

一方のCTLA-4は活性化したT細胞に発現するタンパク質ですが、PD-1と同様に、もともとはT細胞を抑制することで免疫を調節する働きを持ったものです。
CTLA-4阻害剤は、CTLA-4に結合してCTLA-4ががん細胞表面のCD80/86受容体に結合することを防ぎ、それによってがんに対する免疫細胞の攻撃力を高めます。

図:CTLA-4阻害剤によるがん治療のしくみ(イメージ)
(左:免疫抑制のしくみ、右:CTLA-4阻害剤によるがん治療のしくみ)
参考文献
  • 日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019
  • 渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. 2018
  • 坪井正博監修:図解 肺がんの最新治療と予防&生活対策. 日東書院. 2016
  • 国立がん研究センター がん情報サービス:免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ
    https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月3日閲覧)
  • 片岡圭亮ほか:実験医学 35(4):541-5, 2017

このページのTOP