多発性骨髄腫って
どんな病気?

監 修 | 京都府立医科大学 血液内科学 教授 黒田 純也 先生

Q.多発性骨髄腫ってどういう病気なの?

A.

多発性骨髄腫は「血液の悪性腫瘍」で、がんの一つであり、血液細胞の1つである形質細胞が、がん化する病気です。形質細胞は、本来、体内に侵入した異物(細菌やウイルス)を攻撃する「抗体(免疫グロブリン)」を作る働きをしています。個々の形質細胞が異なる抗体を作り出し、さまざまな異物を攻撃することができます。しかし、この形質細胞ががん化し、骨髄腫細胞となって骨髄の中で増えると、正常な抗体(免疫グロブリン)の代わりに異物を攻撃する働きのない抗体(Mタンパク)だけを作るようになります。この骨髄腫細胞や、Mタンパクが多発性骨髄腫のさまざまな症状の原因となります。

骨髄腫細胞からのMタンパク産生(イメージ図)

骨髄腫細胞からのMタンパク産生のイメージ図。上述の正常の場合と多発性骨髄腫の場合の違いを図式化

永井正. 図解でわかる 白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫, 2016, p233, 法研より改変

血液中には、組織に酸素を運ぶ赤血球、出血を止める血小板、体内の細菌やウイルスと闘う白血球などが含まれています。白血球はさらに単球、好中球、好塩基球好酸球、リンパ球に分けられます。リンパ球にはB細胞T細胞があり、そのほかにNK(ナチュラルキラー)細胞があります。
これらの血液細胞はすべて骨の中の骨髄中の造血幹細胞が成長(分化)して生まれます。

図1造血のしくみ

多能性造血幹細胞が血液細胞を作り出す過程を図解。多能性造血幹細胞はリンパ系前駆細胞と骨髄系前駆細胞に分化する。そこからさらに白血球を構成する単球、好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球などが作り出されていく。

山田幸宏 監修. 看護のための病気のなぜ?ガイドブック, p248-249, 2016, サイオ出版を参考に作成

皮膚や粘膜の傷などから、体内に異物が侵入すると、まずマクロファージや樹状細胞などがその異物を食べ(貪食)、リンパ節に移動し、T細胞に異物の情報を伝えます。情報を受け取ったT細胞は、ヘルパーT細胞となって、B細胞に異物に合わせた抗体(免疫グロブリン)を作るように指令を出します。指令を受けたB細胞は、抗体(免疫グロブリン)を作る働きを持つ形質細胞に変化し、指令をもとに異物に対応する抗体(免疫グロブリン)を作り出します。
抗体(免疫グロブリン)は、異物に対応するように作られているため、標的となる異物を選んで結合し、細胞への侵入を防ぎます。また、抗体が結合した異物は、好中球に攻撃されやすくなります。これらの働きにより、異物が撃退されます。

形質細胞と抗体の役割を図式化。異物の情報を受け取ったT細胞はB細胞に抗体を作り出すように指令を出す。B細胞が活性化して形質細胞となり、抗体を作り出す。抗体が結合した異物は好中球に攻撃されやすくなる。 TCR MHCⅡ
  • 松本健治 監. 運動・からだ図解 免疫学の基本, 第2章 免疫を担うもの, p59, マイナビ出版, 2018より改変
  • 松本健治 監. 運動・からだ図解 免疫学の基本, 第3章 外的撃退のプロセス, p109, マイナビ出版, 2018より改変
  • イラスト:池田聡男(池だ工房)
  • このページのTOP