妊娠・授乳期の乳がんについて知りたい方へ
~先生からのメッセージ~
女性にとって妊娠・授乳期という通常とは異なる心理・身体的状態で、がん治療を受けることは並大抵のものではないと思います。妊娠・授乳期という時期であっても、早期発見ができて適切な治療を受ければ、母子ともに健やかに過ごせる可能性が高くなります。いつもと胸の形や張り感が違う、授乳後に硬いしこりが残る、母乳に血が混じる、赤ちゃんが急に母乳を飲まなくなったなどは、乳がん発見のきっかけになる症状です。皆さんからもどうぞ周りのママたちにも「ブレストアウェアネス」のお声掛けをお願いいたします。
妊娠関連乳がんとは?
妊娠中や授乳期に診断された乳がんのことを妊娠関連乳がんと言い、診療現場では通常の乳がんとは分けて対応しています。妊娠関連乳がんは、検診対象年齢である40歳以下の方に多く見られ、妊娠中の乳房の大きさや張りにより、発見が遅れがちで進行しているケースが多いです。
妊娠関連乳がんは、妊娠中に発見される乳がんと、産後1年以内または授乳期に診断される乳がんに分かれます。
妊娠中に発見される乳がんの症状、検査と治療
症状
典型的な症状は乳房のしこりですが、妊娠期乳がん特有の症状やサインはありません。
特に妊娠期は、乳房のしこりや皮膚の変化を感じても、妊娠症状の一つとして思われることが多いため、乳がんの発見が遅れることがあります。
そのため、妊娠中であってもしこりや乳房の変化など違和感があれば、自己判断せず、まずは専門医療機関を受診するようにしましょう。
検査
胎児への影響がなく安全に検査できる乳腺エコー、細胞診・針生検、そして鉛板で腹部を保護して行うマンモグラフィ検査があります。
気になることがあれば、まずは専門医療機関へ相談しましょう。
治療
妊娠期に見つかった乳がんに対しても、基本的には通常の乳がんと同様に、病期や乳がんの性質、サブタイプなどによって治療法を検討します。そのうえで妊娠の時期を考慮して具体的な方針を決定します。
妊娠の継続や出産・授乳によって、がんの進行が早まったり、再発の危険性が高まるということはありませんが、妊娠の時期によっては治療開始の遅れがデメリットになる可能性があります。
しかし、手術、薬物療法や放射線療法は、妊娠の時期によって胎児に影響を与える可能性があります1)。特に、妊娠前期は胎児のからだの器官ができる大事な時期です。
妊娠中に治療を行う場合は、ご家族や医療者と治療効果と胎児への安全性について、十分に話し合って決めましょう。
胎児発育とがん治療の影響1)
※横スクロールにて全体をご確認いただけます。
妊娠週 |
0w0d |
4w0d |
12w0d |
28w0d |
32w0d |
---|---|---|---|---|---|
妊娠期 |
前期 |
中期 |
後期 |
||
薬剤の胎児発育に |
All or none |
催奇形性に関与 |
胎児毒性に関与 |
||
手術 |
原則行わない |
実施可能 |
原則行わない |
||
アンスラサイクリン系薬剤/タキサン系薬剤 |
原則行わない |
実施可能 |
原則行わない |
||
抗HER2治療 |
禁忌 |
||||
内分泌治療 |
禁忌 |
||||
放射線治療 |
原則行わない |
産後1年以内または授乳期に診断される乳がん
特徴
出産後の女性の乳房では、授乳終了後の乳腺組織の変化により、がんの進行や転移が促されやすい環境となっているため、妊娠中に発見される乳がんよりも進行しやすいと言われています。また抗がん剤治療においては、母乳への薬剤移行の可能性があるため、抗がん剤治療中の授乳は避けるべきです。しかし、お薬によっては授乳と両立可能なものもあり、医師や薬剤師と相談しながら対応することが大切です。
パートナー・ご親族の方へ
妊娠・授乳期は女性にとって大きなライフイベントの1つです。ご自身のことよりもお子さんのことに意識が向きやすく、自分の身体のことはどうしても後回しになりがちになります。パートナーやご親族のあなたが患者さん自身の身体と心を気にかけ、お声掛けをしてあげることが大きなサポートになります。
また患者さんからの声として、周囲に状況を打ち明けることで、予想以上の理解と協力を得られ、闘病生活が楽になったというお話もあります。特に妊娠中の女性にとって、最も身近な存在として、あなたの理解と支援は何よりも大切です。妊娠中の患者さんの意思決定を尊重しつつ、必要に応じて周囲との橋渡し役になることを考えてみていただけるといいでしょう。
患者さんの気持ちに寄り添い、共に乗り越えていくあなたの姿勢が、患者さんがこの時期を乗り越える大きな力となります。
このページの監修をしている先生
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片岡 明美 先生
がん研究会有明病院 乳腺センター
乳腺外科 医長