遺伝性の卵巣がんって?

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

監修 近畿大学医学部 産科婦人科学 教授 
松村 謙臣 先生

近い家族に卵巣がんの患者さんがいる場合は、注意が必要

卵巣がんには、遺伝的な要因が強く関わる「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」というものがあります。

BRCA1および2という遺伝子に生まれつき病的な変化があるために、乳がんや卵巣がんを高確率で発症するものです。家族の中に乳がんや卵巣がんを患った方がいる、などの特徴があります。
HBOCかどうかはBRCA1/2が変異しているかどうかを調べることで確定しますが、HBOCの特徴に該当する場合は、まだがんになっていなくても医師に相談しましょう。

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専門医からのメッセージ

ご家族に卵巣がんの患者さんがいる方は、自分も発症してしまうのではないかと不安に感じておられることでしょう。HBOCでは、卵巣がん以外のがんも発症してしまう確率が高いので、気になる場合は早めに専門の医師に相談することをお勧めします。HBOCの方が乳がんを発症する確率は、一般の方の10.6%1)に対して、BRCA1に変異がある場合:72%、BRCA2に変異がある場合:69%2)、卵巣がんでは一般の方1.6%1)に対して、BRCA1に変異がある場合:44%、BRCA2に変異がある場合:17%2)と言われています。

<図>遺伝性のBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異(gBRCAm)による乳がん・卵巣がん発症リスク
前述のHBOCの方が乳がんを発症する確率、卵巣がんを発症する確率をグラフで記載

gBRCAmによる乳がん・卵巣がん発症リスク

  • 対象gBRCA1m女性6,036例、gBRCA2m陽性女性3,820例
  • 3つのコホートInternational BRCA1/2 Carrier Cohort Study, Breast Cancer Family Registry,
    Kathleen Cuningham Foundation Consortium for Research into Familial Breast Cancer(1997-2011)

Ref: Karoline B Kuchenbaecker, et al. JAMA. 2017; 317(23):2402-2416

  • 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(最新がん統計)

  • 2)Kuchenbaecker KB, et al.: JAMA. 2017;317(23):2402-16.

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卵巣がんの約10~15%は遺伝性のもの

卵巣がん患者さんの約10~15%は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に該当するとされています1, 2)

  • 1)Hirasawa A, et al.: Oncotarget. 2017;8(68):112258-112267.

  • 2)Enomoto T, et al.: Int J Gynecol Cancer. 2019;29(6):1043-1049.

【調査方法】
日本人卵巣がん患者230例に対する次世代シーケンサーによる遺伝子変異の発現頻度の調査結果1)、日本人卵巣がん患者634例に対するBRCA1/2遺伝子変異検査の結果2)を合計した。

  • 「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために vol.5」
    特定非営利活動法人日本HBOCコンソーシアム 広報委員会 編集

乳がんと卵巣がんを発症する確率が高くなっています。乳がんの場合は若い年齢で発症すること3)、トリプルネガティブというタイプが多い4)ことなどの特徴があります。卵巣がんでは、高異型度漿液性がんが多いという特徴があります。
他に膵臓がんや、男性では前立腺がんや男性乳がんを発症するリスクも高いと言われています5)

  • 3)Noguchi S, et al.: Cancer. 85(10):2200-5, 1999

  • 4)Nakamura S, et al.:Breast Cancer. 22(5):462-8, 2015

  • 5)厚生労働科学研究がん対策推進総合研究事業「わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究」班編: 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き
    2017年版

  • HBOCによる乳がんの特徴

    • ・若い年齢で発症する
    • ・トリプルネガティブというタイプが多い
  • HBOCによる卵巣がんの特徴

    • ・高異型度漿液性がんが多い

専門医からのメッセージ

HBOCはBRCA1/2に病的な変化があるかどうかの検査を受けて、診断が確定します。
卵巣がんの患者さんのうち10〜15%がHBOCであると言われていますが1, 2)、がんの顔つき(組織型)によって、HBOCである確率は異なります。日本では、卵巣がんの患者さんのうち、高異型度漿液性がんの患者さんでは、1/4程度がHBOCであると報告されており2)、その頻度は他の組織型よりもはるかに高くなっています。さらに、スクリーニング検査でHBOCであることがわかった卵巣がんの患者さんのうち、半数程度には、HBOCを予測できるような乳がん、卵巣がんの家族歴がないことも知られています。そのことから、卵巣がんのうち、特に進行した高異型度漿液性がんの患者さんでは、家族歴を問わず、BRCA1/2の遺伝子検査を行うことがHBOCを診断するために有用です。
HBOCであった場合、将来のがんを予防するために有効とされている方法(予防的な乳房や卵巣・卵管の切除)があります。すでに卵巣がんを発症している方でも、通常の卵巣がんとは異なるお薬を使うことができる場合があります。
下図の理由より、HBOCの検査(BRCA1/2遺伝子変異検査)は、最初は卵巣がんや乳がんを発症した患者さんに受けて頂くのが望ましいです。

  • 1)Ikuko Sakamoto, et al. Cancer. 2016 Jan 1;122(1):84-90

前述の卵巣がん・乳がんの有無によるHBOC検査結果の解釈の違いをチャートを用いて解説

また検査にかかる費用の面でも、下表のとおり、進行卵巣がん・転移性乳がんの患者さんが受ける場合の負担が最も少なくなります。しかし一つでもチェックリストに当てはまる項目があったら、HBOC検査について、かかりつけ医や遺伝カウンセラーに相談していただきたいと思います。

検査を受ける人の状態

検査にかかる費用

① 卵巣がん・乳がんではなく、ある血縁者の集団内で最初にBRCA1/2遺伝子変異検査を受ける

保険適用されず、またすべての遺伝子の変異について検査を行う必要があるため数十万円の費用がかかる

② HBOCが疑われる乳がん・卵巣がん/転移性または再発乳がん・進行卵巣がん

保険診療内で検査が受けられるため、数万円の負担で済む

③ BRCA1/2遺伝子変異のある②の血縁者

遺伝子のうち特定の部分のみを検査するため、数万円の負担で済む

  • 1)Hirasawa A, et al.: Oncotarget. 2017;8(68):112258-112267.

  • 2)Enomoto T, et al.: Int J Gynecol Cancer. 2019;29(6):1043-1049.

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