監修 近畿大学医学部 産科婦人科学 教授
松村 謙臣 先生
治療の全体像
まずは手術をしてがんの広がり方(ステージ)を判定し、それに応じてその後の治療法を決定します。
卵巣がん治療の全体像
手術による腫瘍摘出、病理検査
-
がんの広がり方(ステージ)の決定
※横スクロールにて全体をご確認いただけます。
Ⅰ期
がんが卵巣あるいは卵管内に限局しているもの
ⅠA期
片側の卵巣あるいは卵管に限局し、腹水細胞診または腹腔洗浄細胞診でがん細胞が認められず、被膜表面への浸潤がないこと。卵巣がんでは被膜破綻も認められないもの
ⅠB期
両側の卵巣あるいは卵管に限局し、腹水細胞診または腹腔洗浄細胞診でがん細胞が認められず、被膜表面への浸潤がないこと。卵巣がんでは被膜破綻も認められないもの
ⅠC期
片側または両側の卵巣あるいは卵管に限局するが、手術操作による被膜破綻(ⅠC1)や、自然被膜破綻あるいは被膜表面への浸潤(ⅠC2)、あるいは、腹水細胞診またはふっくう洗浄細胞診でがん細胞が認められるもの(ⅠC3)
Ⅱ期
がんが片側または両側の卵巣あるいは卵管内に存在し、さらに骨盤内臓器へ進展しているもの。あるいは原発性の腹膜がん
ⅡA期
子宮や、原発部位以外の卵巣、卵管へ進展しているもの
ⅡB期
子宮、卵巣、卵管以外の骨盤部腹腔内臓器(直腸、膀胱、膣など)へ進展しているもの
Ⅲ期
がんが骨盤腔をこえて、腹腔内に転移しているか、後腹膜リンパ節に転移していることが、組織学的あるいは細胞学的に確認できるもの
ⅢA1期
後腹膜リンパ節のみに転移のあるもの
転移巣で最大で、径10mm以下[ⅢA1(i)]と径10mmをこえる[ⅢA1(ii)]で分けるⅢA2期
後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、目には見えない顕微鏡レベルの腹腔内転移のあるもの
ⅢB期
後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、最大径2cm以下の腹腔内転移のあるもの
ⅢC期
後腹膜リンパ節転移の有無にかかわらず、最大径2cmをこえる腹腔内転移のあるもの(肝臓や脾臓の表面のみへの進展も含む)
Ⅳ期
腹腔内転移以外の遠隔転移のあるもの
ⅣA期
胸水中にがん細胞を認めるもの
ⅣB期
腹腔内臓器(肝臓・脾臓)への実質転移のあるもの、あるいは腹腔外臓器(鼠径リンパ節や腹腔外リンパ節を含む)に転移のあるもの
ステージに応じた治療法の決定(経過観察または薬物療法)
日本婦人科腫瘍学会編:患者さんとご家族のための子宮頸がん子宮体がん卵巣がん治療ガイドライン 第3版, 金原出版, 2023, p153
最初の手術で採取した組織から、がんの顔つき(組織型)が判定されます。組織型にはそれぞれ特徴があり、ステージと合わせて、最適な治療法の判断材料となるものです。組織型のうち、主要な4つの特徴は下記のとおりです。
漿液性がん |
卵巣がんの中で最も多い組織型です。さらに、高異型度と低異型度に分類されます。 高異型度漿液性がん:漿液性がんの中で圧倒的に多く、抗がん剤の効きがよいタイプです。 低異型度漿液性がん:境界悪性腫瘍(「Q.卵巣がんのステージⅠとは、どのような状態なのでしょうか?」参照)を背景に発生するもので、抗がん剤の効きづらいタイプです。 |
---|---|
明細胞がん | 半数ほどはステージⅠの早期で見つかり、進行することはあまりありません。 ただし抗がん剤は効きづらいタイプです。 |
類内膜がん | 正常細胞との形の違いはそこまで大きくなく(異型度が低い)、進行することはあまりありません。 |
粘液性がん | 腫瘍の大きさが10cmを超えることが多いですが、進行することはあまりありません。良性腫瘍を背景に発生すると考えられています。 |
日本婦人科腫瘍学会編:卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版, 金原出版, 2020, p59より作成