どんな治療をするの?

妊娠の可能性を残す治療について

監修 近畿大学医学部 産科婦人科学 教授 
松村 謙臣 先生

将来の妊娠・出産を希望する患者さんへの治療

ごく早期で、片方の卵巣内にのみ留まっているがんであれば、妊娠できる機能(妊孕性)を残した治療法を選択することができます。

妊孕性を残した治療を行うためには、まず患者さんご自身が妊孕性温存を希望し、さらに妊娠可能な年齢であることが前提条件となります。さらに患者さんとご家族が妊孕性を残す治療の内容や再発リスクを理解していること、治療後の長期にわたる厳重な経過観察に同意していること、婦人科腫瘍に精通した婦人科医が注意深く腹腔内を検索することが可能であり、婦人科腫瘍に精通した病理専門医による診断が可能であることも必要です。
治療では、がんがある方の卵巣・卵管と大網を切除した後に、ステージと組織型の検査と腹水細胞診を行います。
その結果、組織型が漿液性がん、粘液性がん、類内膜がんのいずれか、ステージがⅠA、分化度が高分化型または中分化型、腫瘍のタイプがⅠ期の上皮性境界悪性腫瘍、すなわち良性と悪性の中間の腫瘍であることのすべてに適合すれば、妊娠を目指すことができます。
どれか一つでも適合しなかった場合は妊孕性を残した治療は不可となり、追加の化学療法や再手術が行われます。

妊孕性を残した治療の流れ
上述の妊孕性を残した治療の流れをチャートで解説
  • ※悪性と良性の中間の腫瘍

  • 日本婦人科腫瘍学会編:患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版, 金原出版, 2023,
    p167-168より作成

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妊孕性を残した治療では、再発リスクをできるだけ下げるために、がんの顔つき(組織型)と進行の程度を正確に知ることが重要です。そのため、摘出した腫瘍をすぐに確認する「術中迅速病理組織検査」と、より精度の高い「永久標本病理組織検査」を組み合わせて、がんの状態が妊孕性温存手術に適合するものなのかどうかを厳密に確認します。
なお再発リスクは上がりますが、妊孕性温存を考慮する余地のある条件というものも定められています(「Q.卵巣がんと診断されました。妊娠・出産はあきらめるしかないのでしょうか?」参照 )。
またがんが本当に卵巣内に留まっているのかを確認するために、腹水内のがん細胞の存在を調べる腹水細胞診が行われます。

専門医からのメッセージ

卵巣がんの患者さんが妊娠できる機能を残すためには、がんの状態について厳しい条件をクリアする必要があります。しかしその条件をクリアしなければ、卵巣・卵管、子宮をすべて摘出した場合と変わらない治療成績を期待することはできません。
術中の迅速検査と永久標本による検査で結果が違い、二度目の手術でがんが認められなかった方の卵管・卵巣を摘出しなければならない、ということも考えられます。
将来の妊娠を考えておられる方は、治療を始める前に、ご家族やパートナー、また担当の医師と、さまざまな可能性について十分に話し合う機会を持つようにしましょう。

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