監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科
教授 岸 一馬 先生
肺がんには特徴的な症状はない
肺がんの主な症状は、風邪や肺炎、気管支炎など一般的な呼吸器の病気にみられる、咳や痰、発熱、動悸、胸の痛み(胸痛)、息苦しさ(呼吸困難)などです。食欲不振や体重減少がみられることもあります。「この症状があれば肺がん」といえるような、特徴的な症状はありません。また、肺がんのできた場所や大きさによって、ほとんど症状が出ないこともあります。
最も多い症状は咳と痰
肺がんで最も多い症状は咳と痰です。肺がんの初期症状として、自覚しやすい特徴的な症状はありませんが、風邪をひいているわけでもないのに、2週間以上咳と痰が続く、血が混じった痰(血痰)が出る場合や、発熱が5日間以上長引く場合には、医療機関を受診しましょう。
肺がんが進行すると、息苦しさや胸の痛みも
肺がんが進行すると、動いたときに息苦しさを感じたり、動悸がしたりすることがあります。これは、肺にできたがんが大きくなったことで、気管の分泌物が増えて空気が通りにくくなることや、がんそのものの影響で気管支を空気が通りにくくなることが原因です。大きくなったがんが気管支を圧迫してしまい、気管支が狭くなると、発熱や胸の痛みを伴う「閉塞性肺炎」を起こすこともあります。
また、がんが大きくなって胸に異常に水がたまる(がん性胸膜炎)ことや、肋骨や神経にまでがんが広がっていることが原因で、胸の痛みを感じることもあります。
壁側胸膜と臓側胸膜の間にある液体を「胸水」と呼びます。健康時でも少量存在しており、呼吸時の肺と胸の動きを滑らかにする働きをしています。肺癌がこれらの胸膜の間(胸膜腔)に広がった状態を「癌性胸膜炎」と言い、胸膜が炎症を起こすため胸水が過剰に分泌されます。胸水が異常にたまると肺が圧迫されることから息苦しさの原因になりますが、大量にたまった場合は心臓も圧迫されるため、心不全の原因になることもあります。
胸水の量が多い場合は、体外へ排出も
胸水の量が多く、症状が強く出ている場合や治療の妨げになる場合には、チューブなどで体の外へ排出させることもあります。
背中の痛みや肩の痛みも。転移による症状
呼吸器の症状がなくても、いつの間にか肺がんが転移していて、転移による症状がきっかけとなり、肺がんが見つかることもあります。肺がんとは無関係に思える症状が、実は肺がんの転移による症状だった、と言うこともあるのです。
肺癌が進行して起こる症状のうち、代表的なものに「上大静脈症候群」「癌性心膜炎」「気道狭窄」「高カルシウム血症」があります。いずれも、緊急の治療が必要になる状態です。
上大静脈症候群
- 【原因】
- 肺癌や、縦隔にあるリンパ節へ転移した癌が大きくなり、上大静脈(頭や手などの上半身をめぐった血液が心臓に戻るときに通る血管)を押しつぶしてしまうことで起こる。
- 【症状】
- 両腕や顔のむくみ、息苦しさ。
- 【治療】
- 急速に症状が悪化する場合:放射線治療などで癌を小さくする、上大静脈の中に金属製のステントを入れて血管を広げる。
- ※上大静脈を通るはずだった血液が、体の表面の血管を通って心臓に戻るようになれば、症状は自然と軽減するため、経過観察となることもある。
癌性心膜炎
- 【原因・状態】
- 心臓を包み込んでいる袋(心嚢(しんのう))の中に、癌細胞が入り込んで水がたまった状態。
- 【症状】
- 息苦しさ、血圧低下、倦怠感、心タンポナーデ。
- 【治療】
- 心タンポナーデ(心嚢の中の水が急に増えて心臓の働きが悪化した状態)の場合は、麻酔をかけた上で体の外から針を刺すなどしてチューブを挿入し、たまった水を体外に排出する。
また、心膜に直接穴を開ける手術をして、たまった水を胸腔内に逃がすようにし、心臓にかかる負担を減らす方法がとられることもある。
気道狭窄
- 【原因・状態】
- 肺癌が大きくなって、空気の通り道(気道)が圧迫され、狭くなった状態。
- 【症状】
- 肺の奥の方が狭窄している場合には、あまり強い症状が出ないことが多い。
気管や太い気管支が狭窄している場合には咳や息苦しさ、肺炎などを引き起こすことがある。放置すると窒息することもある。 - 【治療】
- 治療で肺癌を小さくする。
急いで気道を広げたい場合は、狭くなっている部分にステントを入れて、気道の内側から広げる処置を行う。
高カルシウム血症
- 【原因】
- 癌組織から放出されるホルモンによる影響。
- 【症状】
- 食欲不振、嘔気・嘔吐などの消化器症状、多飲・多尿。
- 【治療】
- 生理食塩水の点滴による脱水の改善、利尿薬などで尿中カルシウムの排出をうながす。
初期症状や自覚症状に乏しい肺がん
肺がんの症状のほとんどは、風邪や肺炎、気管支炎など一般的な呼吸器の病気にみられる症状と変わりません。「この症状は肺がんの初期症状」といえるような、特徴的な症状や、わかりやすい自覚症状はありません。早期の肺がんでは、症状が出ないこともあります。症状があっても、風邪などの他の病気と区別がつきにくいため、早期発見には肺がん検診を受けることが大切です。40歳を過ぎたら、男女ともに年に1度、検診を受けることが厚生労働省より推奨されています。また、咳や痰などの症状が長引く場合や、風邪のような症状に胸の痛みや発熱など、複数の症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
関連リンク
参考文献
- 日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 金原出版. 2019
- 渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. 2018
- 日本呼吸器学会:呼吸器Q&A
https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=68(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2020年6月3日閲覧)