おしえて先生!リンパ腫のコト

新潟大学医歯学総合病院 血液内科 診療科長 
瀧澤 淳 先生

健康意識が高まる時代

~リンパ腫を正しく知ろう~

瀧澤 淳 先生

新潟大学医歯学総合病院
血液内科 診療科長

インタビュー実施日:
2023年8月17日(木)
ANAクラウンプラザホテル新潟

新潟大学医歯学総合病院血液内科では、さまざまな血液疾患の治療薬開発のための治験や、最新のエビデンスに基づく治療を提供しています。血液内科診療科長の瀧澤淳先生に、リンパ腫という病気について、さらに、受診する患者さんのもつ不安感などについてお話を伺いました。

リンパ腫とはどのような病気なのでしょうか?

血液中に含まれる細胞のひとつに、異物の侵入から身体を守る働き(免疫機能)をもつ白血球があります。リンパ腫とは血液のがんの一種で、白血球の一種であるリンパ球が、その成長の過程で遺伝子の突然変異を起こし、異常な細胞となって増えてしまう病気です。
リンパ腫は単一の病気でなく、たくさんの種類(病型といいます)があり、病型によって病気の経過も治療の方法も異なるため、まずはどの病型のリンパ腫かを確定することが重要になります。

リンパ腫の患者さんはどのような経緯で血液内科を
受診されるのでしょうか?

患者さんの多くは、まず健康診断などを受けた際に、何らかの異常が見つかり、かかりつけ医や近隣の病院を受診します。そこで血液疾患が疑われる患者さんが、当院への紹介を受け受診することになります。なかには、頸部(首の部分)のリンパ節が腫れて近隣病院の耳鼻科や内科を受診し、当院の耳鼻科に紹介されてくるケースもあります。リンパ腫は全身の病気であり、どこにでもできる可能性があります。そのため、耳鼻科に限らず、呼吸器内科や消化器内科、外科系の診療科などあらゆる診療科を受診する可能性があります。病院内の他の診療科との連携を重視して、リンパ腫の疑いがある患者さんが受診された場合は、その科の先生から血液内科に相談がきて、血液内科医が速やかに診療できるような体制づくりが重要であると考えます。

患者さんはとても不安をかかえて
受診されるのではないでしょうか?

大学病院を紹介される段階で、「リンパ腫の可能性があるから専門の病院で診てもらって治療をした方がいい」といわれる場合が多く、来院された時にはとても不安に感じていらっしゃる患者さんが多いようです。私自身もそう言われれば、やはり不安になるだろうと思います。
たしかにリンパ腫は悪性腫瘍のカテゴリーに入り、その一部に手強いものがあることは間違いありません。しかしリンパ腫は単一の病気ではなく、世界保健機関(WHO)の分類によると70種類以上に分けられ1)、病型によって経過も治療の方針も異なります。なかには治療を急ぐ必要がない病型もありますし、治療を必要とする病型でも、一部の特殊な例を除き、適切な治療によって治癒を目指すことができます。ですから私は患者さんには「あまり心配し過ぎないで、まずはしっかりと必要な検査をし、その結果を踏まえて治療の方針を決めましょう」と伝えています。

リンパ腫の患者さんは増えていますか?

過去25年くらいの間、当施設で診断したリンパ腫のほぼ全例を把握していますが、リンパ腫の患者さんは確実に増えています。
患者さんの年齢層はリンパ腫のタイプによって異なるため一概には言えませんが、全体としては70歳代、80歳代の患者さんが多くいらっしゃいます(図1)2)。これにはさまざまな原因が考えられますが、最大の要因は高齢者人口の増加です。

図1:年齢階級別罹患率【悪性リンパ腫 2019年】2)

リンパ腫の年代別発生率(0~100歳以上)を5歳ごとのプロットにて、折れ線グラフで記載

調査方法:日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析

  • 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(ganjoho.jp:2023年11月閲覧)

リンパ腫に特徴的な症状には
どのようなものがあるのでしょうか?

リンパ腫の場合、一般的には、腫れたリンパ節に痛みがないことが多く、特徴的な症状として、

  1. ①38℃をこえる原因不明の発熱が続く
  2. ②寝具(掛け布団、シーツなど)や寝巻を替えなければならないほどの激しい寝汗
  3. ③6カ月以内に、通常の体重の10%を超える原因不明の体重減少

などがあります。リンパ節の腫れに加え、このような症状がある場合には、病院を受診するようにしてください。
リンパ系の腫瘍では、日中でも横にならずにいられないほどの疲労感が生じる場合があり、仕事をはじめ、生活に支障がでてきます。また、このような強い疲労感は、リンパ腫に限らず、何らかの病気が隠れている可能性があることが考えられます。
リンパ節の腫れが週単位で急速に大きくなってくるような場合は、できるだけ早く医療機関への受診をご検討いただきたいと思います。こうしたタイプのリンパ腫は多くはありませんが、早期の治療が必要となることが多いと思います。
リンパ腫の診断は血液内科の専門医が行いますが、リンパ節の腫れを自覚した場合には、まずはかかりつけ医を受診し、他の原因となる病気が明らかでない場合、血液内科を受診していただくのがよいと思います。

日本人によくみられるのは
どのようなタイプのリンパ腫ですか?

リンパ腫は大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられ、日本人では非ホジキンリンパ腫が約90%を占めます。非ホジキンリンパ腫のなかでもっとも多いのが「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」で、全体の約4割を占めています。続いて「濾胞性(ろほうせい)リンパ腫」と「MALTリンパ腫」がそれぞれ1割弱を占めています3)
これらは進行のスピードによって、

  1. ・年単位で進行(低悪性度リンパ腫)
  2. ・週~月単位で進行(中悪性度リンパ腫)
  3. ・日~週単位で進行(高悪性度リンパ腫)

に分けられます(図2)4)。たとえば、DLBCLは中悪性度リンパ腫、濾胞性リンパ腫は低悪性度リンパ腫に分類されます4)

図2:非ホジキンリンパ腫の病気の進行度に基づく分類4)

上述の非ホジキンリンパ腫の病気の進行度に基づく分類をチャートで記載
  • 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p213-214より作図

さらに腫瘍の広がりによって、病期(ステージ)が

  1. ・I~Ⅱ期(限局期)
  2. ・Ⅲ~Ⅳ期(進行期)

に分けられます(図3)5)

図3:リンパ腫の病期(ステージ)5)

限局期進行期

  • Ⅰ期

    1つのリンパ節領域(例:右の頸部、左のわきの下など)でリンパ節が腫れている。または、リンパ節領域以外の病変が1つの臓器(胃など)のみの場合。

  • Ⅱ期

    横隔膜を境に上半身もしくは下半身のどちらか一方で、2つ以上のリンパ節領域が腫れている(例:右の鎖骨の上と左右のわきの下)。または、節外病変が1つの臓器(胃など)とリンパ節領域が1つ以上の場合。

  • Ⅲ期

    横隔膜を境に上半身と下半身にまたがって、リンパ節領域が腫れている場合(例:右の脇の下、右足のつけ根)。

  • Ⅳ期

    肝臓などの大きな臓器が侵されていたり、骨髄や血液中にがん細胞が広がっている場合。

  • リンパ節病変
  • 臓器病変
  • 日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p214-215より作図

低悪性度リンパ腫の患者さんで無症状の場合、ほぼ通常と同程度の生活を送ることができます。例えば、悪性度が低いリンパ腫で、症状もなく、病変もさほど広がっていない場合では、診断後10年以上、積極的な治療を必要としないケースもあります。ただし、なかには症状が急速に進行する場合もあるので、それを見逃さないように経過観察する必要があります。
一方、悪性度が高いリンパ腫に関しては、放置すれば生命にかかわりますので、適切な治療を必要なタイミングでおこなうことが重要です。リンパ腫のうち、最も頻度の高いDLBCLは、ステージⅣであっても治癒が期待できるため、治癒を目指してしっかりと治療を行うことが重要です。これに対し、低悪性度リンパ腫である濾胞性リンパ腫やMALTリンパ腫などは、急速に悪化することは少なく、症状がなければ無治療で経過観察をすることが多いです。
また、ホジキンリンパ腫は、有効な治療方法が確立しており以前から治癒を目指せる病型とされてきましたが、近年、治療研究の進歩により、限局期では患者さんの負担を少なくする減弱治療ができる場合があります。
いずれの場合も、患者さんに症状があり、何か困るようなことがあれば、早く治療を開始することが大事です。患者さんの状況を見ながら、適切な時期に正確な診断をつけることがリンパ腫の診療において一番大事なことだと思っています。

早期発見が重要なリンパ腫には
どのようなタイプがあるのでしょうか?

患者さんの数は少ないものの、早い発見が重要なリンパ腫に、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)があります。このタイプは急激に進行して白血病になったり、脳に広がったりしやすく、治療が遅れると治癒が難しくなります。バーキットリンパ腫も急速に進行しますが、早く見つけて、短期集中で強力な化学療法を行えば治癒を目指すことができます。こうした悪性度の高いリンパ腫は、特に早期発見と早期診断が重要です。

リンパ腫という病気の解明や治療の進歩について
どのように受け止めていますか?

今世紀に入って遺伝子解析の技術が進んだことで、リンパ腫の発症や進展に関わるさまざまな遺伝子異常が解明され、特定の遺伝子異常に作用する分子標的薬などの治療薬が登場しています。これにより、治療の選択肢が増えてきていることは、患者さんにとって非常に良いことだと思います。医師としてもさまざまなリンパ腫の病型があるなかで、どのように治療薬を使うのがより有効であるか、新薬の治験などにも参加をし、患者さんがベストな治療を選択できるように研究、努力しています。

リンパ腫の専門医を受診するよう紹介されても、
あまり心配しすぎないで早めに行動することが
大事なのですね。

病型にもよりますが、どのくらいの大きさにリンパ節が腫れたら治療すべきかについては、国際的な合意が得られた治療開始基準が決められており、共通の認識が得られています。診断がつけば、それを踏まえた必要な検査を専門医が行い、適切なタイミングで適切な治療を行いますから、リンパ腫の疑いがあるからと受診をためらったり、恐れたりする必要はないと考えていただければと思います。
近年、健康意識が高まるなかで非常に稀にはなってきてはいますが、病状が進み、他院での診療が難しいという理由で、かなり悪化してから大学病院に紹介されてくる患者さんもいらっしゃいます。そうならないためにも、健康に対する意識をもっていただくことは大切です。ちょっといつもと違っておかしいなと思うことがあれば、まずは医療機関を受診するか、健康診断を受けていただければと思います。
リンパ腫は3つの血液のがん(白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫)のなかでもっとも患者数が多く、他のがんと比べても決して少ない病気ではないので(図4)2)、リンパ腫という病気があるということを心に留めておいていただきたいと思います。

図4:血液がんで2019年の1年間において新たに診断された患者数2)

3大血液がん(リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病)で、2019年の1年間において新たに診断された患者数を疾患別に、棒グラフで記載

調査方法:日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析

  • 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)部位別がん罹患数(ganjoho.jp:2023年11月閲覧)
    より抜粋して作成
  • 1)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p209-213
  • 2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(ganjoho.jp:2023年11月閲覧)
  • 3)Lymphoma Study Group of Japanese Pathologists. Pathol Int. 2000;50:696-702.
  • 4)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p213-214
  • 5)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p214-215

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