おしえて先生!リンパ腫のコト

東北大学病院 血液内科 
福原 規子 先生

ご家族が“リンパ腫”と
診断された方へ

福原 規子 先生

東北大学病院
血液内科

インタビュー実施日:
2023年8月18日(金)
中外製薬株式会社 南東北支店会議室

宮城県仙台市にある東北大学病院は、関連病院とともに地域の血液内科の役割を担い、東北地区の大学病院とも連携をとって多くのリンパ腫の患者さんを診療しています。今回は、東北大学病院 血液内科に勤務し、日々リンパ腫の患者さんの診療にあたりながら、リンパ腫治療の進歩のための臨床試験にも積極的に取り組んでいる福原規子先生に、リンパ腫の患者さんのご家族に向けてのメッセージをいただきました。

大学病院ということでかかりつけ医から
紹介される患者さんも多いと思いますが、
患者さんだけでなく、ご家族も大きな不安を抱えて
来院されるのではないでしょうか。

当院を受診される患者さんの多くは、CT検査などで全身に複数のリンパ節の腫れが確認され、「リンパ腫の疑いがある」、あるいは「リンパ腫である」と診断されて来ます。そのため、患者さんもご家族もかなり不安を抱えた状態で来院されます。
また、当院に来てからも詳しい診断がつくまでに時間がかかるケースも少なくないため、そのことにも不安を感じてしまうのではないかと思います。病理医と呼ばれる専門の医師が顕微鏡などで詳しく検査して、詳細な診断をすることは、リンパ腫治療ではとても大切です。その理由は、リンパ腫と言っても、実はその種類は70種類以上にも分かれているためです1)。その種類を正確に診断することで、最適な治療を選ぶことに繋がります。
リンパ腫の種類を正確に診断するためには、腫れているリンパ節から細胞を採り(生検といいます)、どのような細胞が異常なのかを顕微鏡で確認したり、遺伝子検査などを行ったりする必要があります。生検から診断まで通常は2-4週間ほど時間がかかりますが、1回の生検で異常な細胞が見つからなくても、体の状態や症状からリンパ腫が疑われる場合には、追加の生検が必要になることもあります。また、疑われるリンパ腫の種類によっては、最初から多くの細胞を採ることが必要になるケースもあります。
最良の治療を行うためには正確な診断が必要です。検査の必要性や診断に時間を要する場合があることを、まずはご家族にも理解いただければと思います。

多くの臨床試験に取り組んでおられるということですが、
患者さんやご家族にとっては臨床試験とは
どういったものなのでしょうか?

より多くの患者さんに、より良い治療を届けるために、標準治療と言われる治療を行うだけでなく、絶えず新しい治療を開発することは当院が果たすべき重要な役割の1つだと思います。患者さんはもちろんのこと、多くの医師や看護師、薬剤師、放射線技師、コーディネーターと呼ばれるサポートスタッフなど様々な職種のスタッフが協力することで治療の開発は成り立っており、当院は病院全体でそのような体制を整えています。
臨床試験にご参加いただくことは、患者さんにとっては治療の選択肢が1つ増えると考えることもできます。ただし、どのような治療でもそうですが、治療には副作用などのリスクが伴います。臨床試験への参加を検討いただくにあたり、想定されるリスクは私たちから丁寧に説明をしています。あらゆる情報を踏まえたうえで、臨床試験という選択をするか否か検討いただくことが、患者さんやご家族にとって重要であると考えています。そのうえで、参加を決断いただいた際には、私たち医療者は全力で患者さんとご家族をサポートするという気持ちで取り組んでいます。

ご家族ができる患者さんへのサポートには
どのようなものがあるでしょうか?

ご家族ができるサポートには、正解も不正解もなく、その患者さんとご家族によって色々なサポートの形があると考えています。患者さんのことはご家族がよくわかるので、メンタルがすぐれない患者さんにはメンタルのサポートを、お薬の管理が難しい患者さんにはお薬の管理を、というように小さなことでも構わないので、それぞれの患者さんに必要なことを見逃さないようにサポートしていただければと思います。
患者さんとご家族が上手に意思疎通を行うためには、家族間で必要な情報を共有できていることが大切です。節目節目で、現在の状況や今後の方針などについて、担当医や医療スタッフと相談する場面があるかと思います。ぜひ、ご家族の方も同席して話を聞いていただくことをお勧めします。お一人で話を聞くよりも、信頼できる方と一緒に話を聞くことで、患者さん自身も心強く感じられるでしょうし、冷静に物事を判断されているようにも感じます。

実際に治療が始まってからは、
ご家族はどんなことに不安を感じたり、
疑問に思われたりすることが多いでしょうか?
そういった不安や疑問に対する先生の
アドバイスも教えてください。

ご家族からは、感染症対策やお薬の副作用、リンパ腫の原因などについて質問を受けることが多いです。

感染症対策

「〇〇を食べていいですか?」「外に出てもいいですか?」といったことをよく聞かれます。まず食事ですが、食中毒に注意するときと同じで、生ものに注意してください。ただし、治療期間中はずっと食べられないわけではなく、治療の影響によって白血球の数が減る期間に特に注意していただければ良いと思います。次に外出ですが、多くの感染症は人との接触で感染しますので、人ごみを避ければ、散歩などに出かけていただいても良いとお話ししています。土地柄かもしれませんが「温泉に行ってもいいですか?」と質問を受けることも多いです。温泉は、混んでいる大浴場に行くことは控えて、他の人が少ない時間帯に利用する、または家族風呂を利用するなど、可能な範囲で人との接触を避けるようにしてはいかがでしょうか。
ただし、患者さんごとに症状や体の状態は異なりますので、気になることがあれば主治医の先生にご相談ください。

手足のしびれ・感覚まひ/脱毛

リンパ腫の治療で使うお薬に多い副作用です。
しびれはわかりやすいのですが、足の感覚まひ(感覚がなくなる)は意外と自覚しにくい症状の1つです。足の裏の感覚が鈍くなると、ちょっとした段差や障害物に気づかずに、つまずいて転んでしまうこともあります。敷居をまたぐときなどは、太ももから足をしっかり持ち上げて歩くなど、ちょっとしたことですが気をつけていただくと安心かと思います。
脱毛も気にされることの多い副作用ですが、普段できないことを試す良い機会とばかりにカラフルなウィッグや素敵なお帽子で来院されて、こちらが驚かされることもあります。

リンパ腫になった原因

感染症などが原因になるごく一部の場合を除いて、リンパ腫になった原因は、他の多くのがんと同じようにわからないことの方が多いです。

セカンドオピニオンの利用

治療を進めるうえで迷うことがある場合は、患者さんとご家族が納得して治療に臨むためにも、セカンドオピニオンを利用していただきたいと思います。主治医も、皆さんが納得したうえで、前向きに治療へ取り組んでいただくことが重要であると考えるはずですので、気になる方は相談してみてください。ただし、費用は病院によって設定金額が異なること、また全額自己負担となることにご留意ください。

経済的な負担

高額療養費制度が利用できます。各病院では医療相談窓口などに専門の相談員(医療ソーシャルワーカーなど)がおりますので、気になる場合はぜひ相談してみてください。

さいごに、患者さんを支えるご家族の方への
メッセージをお願いします。

患者さんにとって、私たち医療者はご家族と比べれば付き合いの短い新参者ですから、患者さんが本当に何を望んでいるかはやはりご家族が一番よくおわかりになるかと思います。治療を積極的に受けたい人、副作用が心配であまり治療をしたくない人など、患者さんの希望はさまざまであり、効果の高い強力な治療がベストな選択になるとは限りません。よく考えたうえで、何を大事にして、どの方法を選択することが一番後悔しないかを決めていただく必要があります。
自分の思いを医師に上手く伝えられない場合もありますから、そこはやはりご家族の支えが大切になると思います。人に話すことで患者さんは気持ちの整理ができますので、ご家族は話を聞いてあげるだけでも十分だと思います。実際、診察室で患者さんが迷っているなと思うときには、「一度、ご家族とおうちでよく相談してきてはいかがですか?」とアドバイスすることもあります。
また、治療にはつらい局面も少なからずありますので、患者さんが心にもないことをご家族には気を許して言ってしまうこともあるかと思います。そのような場合はできるだけ受け流しつつ、見守っていただけるとありがたいです。「何か良いことを言ってあげなくては」と思わずに、そばにいるだけでいい。そんな風に考えていただくことが、患者さんを支えるために大切なことなのかもしれません。

  • 1)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p209-213

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