おしえて先生!リンパ腫のコト

日本赤十字社 長崎原爆病院 血液内科 部長 
城 達郎 先生

治療中もあなたらしく
過ごすために

城 達郎 先生

日本赤十字社 長崎原爆病院
血液内科 部長

インタビュー実施日:
2023年9月8日(金)
出島メッセ長崎

長崎県長崎市にある長崎原爆病院は、地域医療の中核を担う病院の一つであり、多くの血液疾患の患者さんを診療しています。今回は、長崎原爆病院 血液内科に勤務し、患者さん一人ひとりに合わせたリンパ腫の治療に取り組んでおられる城 達郎先生に、治療中の副作用との向き合い方や治療と仕事の両立など、リンパ腫の患者さんが治療中も自分らしく過ごすためのヒントを伺いました。

多くのリンパ腫患者さんを診察されているとのことですが、
リンパ腫の治療にはどのように取り組まれていますか?

リンパ腫は、進行の早さや症状の激しさ(悪性度)、がん化したリンパ球の種類などに応じて、細かく病型(タイプ)が分類されています。そのなかでも、一般的には「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」、「濾胞性リンパ腫」というタイプが多いのですが、当院では「成人T細胞白血病/リンパ腫」の患者さんを診察するケースも比較的多くみられます。
リンパ腫の治療には、主に抗がん剤分子標的薬と言われる種類の薬剤を使った薬物療法や、放射線療法造血幹細胞移植などがありますが、リンパ腫のタイプや患者さんの状態に応じて、適切な治療方法はそれぞれ異なります。
私たち血液内科医は、患者さん一人ひとりに合わせて、最善の治療方法を選択する「個別化医療」を受けていただけるよう努めています。その一環として、新薬開発のための臨床試験に取り組んでいるほか、国内外の学会でも発表を行い、リンパ腫治療に関する最新の情報を常にキャッチするようにしています。

リンパ腫を治療中の患者さんは
どんなことに不安を感じているのでしょうか?

「仕事を続けながら治療ができるのか」、「治療による副作用が仕事に影響を及ぼしたり、生活の質(QOL)を低下させるのではないか」といった心配をされる患者さんが多いように思います。
リンパ腫の治療には医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士など様々な医療スタッフが連携しながら患者さんをサポートします。そのため、不安や心配ごとは我慢せずに、いつでも、医療スタッフへご相談いただければと思います。
また、相談先の一つとして、「がん相談支援センター」という相談窓口を設置している病院も多いと思います。医療費の相談、就労支援、図書の貸し出し、患者さん同士の交流の場の提供などいろいろな支援が行われており、その病院に通っていない方も含め、どなたでも相談することができます。ほかの患者さんのお話を聞いたり、自分の気持ちを伝えたりすることで、参考となる情報を得られるとともに、不安な気持ちが少しでも和らぐのではないかと思います。私たち医療スタッフへの相談はもちろんですが、こういった窓口への相談も選択肢の一つであることを多くの方に知っていただきたいと思っています。

副作用を心配される方も多いということですが、
副作用とはどうつき合えばよいでしょうか?

リンパ腫ではどの治療法においても比較的起こりやすい副作用として、「吐き気・嘔吐」、「口の渇き、口内炎」、「脱毛」などが挙げられます。特に、がんの治療というと「吐き気・嘔吐」がイメージされて不安を感じる患者さんも多いのですが、吐き気止めのお薬も進歩していますので、決して我慢しすぎずに医師またはその他の医療スタッフへ相談してもらいたいと思います。更に、薬物療法の際にしばしば認められる副作用として、末梢神経障害(しびれ感やピリピリ感が手足の指先にあらわれる)が挙げられます。症状が強ければお薬の量を減らしたり、いったん原因と考えられる薬剤を中止したりして、患者さんの様子をみるようにしています。また、味覚障害も比較的あらわれやすい副作用で、治療中は「食事がおいしくない」と言われる患者さんも多いのですが、治療が終了して数ヵ月すると味覚が改善することが多い印象です。
いずれの副作用も、患者さんお一人で我慢する必要はありません。苦しい、辛いと感じる時には、私たち医療スタッフに是非相談していただきたいと思っています。

治療しながら仕事は続けられるのでしょうか?

患者さんのリンパ腫の状態にもよりますが、通院で治療できるケースもあるため、仕事を続けながら治療に取り組まれている患者さんもおられます。一方で、患者さんにとって最も良い治療効果を得るためには、ある一定の期間はお仕事を休み、治療に専念していただく方が良いと考えられるケースもあります。そういった場合には、患者さんの状態や治療の必要性を丁寧にお伝えしたうえで、リンパ腫治療への専念をお勧めするようにしています。お仕事を休む際に経済的な不安があれば、「がん相談支援センター」などに相談しながら、できる限り最善の治療を受けていただきたいと考えています。
リンパ腫治療へ臨む患者さんが置かれている状況は様々です。患者さんが何を大事にされているかを確認し、治療に対する想いや考えなどをすり合わせながら、最終的に患者さん及びご家族の皆さんが一番納得できる治療を選択していただけるよう努めたいと考えています。

患者さん一人ひとりに合わせて、
最善の治療方法を選択する「個別化医療」について、
詳しく教えてください。

リンパ腫のタイプが判明した後は、病気の広がり具合を調べて病期(ステージ)を決めます。そのうえで、患者さんの年齢、合併症の有無、肝臓や腎臓などがどのくらい正常に機能しているか、それから通院にどのくらいの時間がかかるのかといった社会的な側面など、患者さんに関するあらゆる情報を総合的に判断して、その患者さんにとって一番良いと思われる治療を考える。これが「個別化医療」です。
医学が進歩していくなかで、リンパ腫にはたくさんのタイプがあって、それぞれの原因が少しずつわかってきました。その原因に標的を絞り、正常細胞にできる限りダメージを与えないお薬の開発が進んできており、「個別化医療」で使われるようになってきています。こういった医学の進歩は、治療中もより患者さんらしく過ごしていただけることへ繋がっていると思います。
そして、「個別化医療」の実現には、患者さんやそのご家族が納得したうえで治療に取り組めることが大切であると考えています。私たち医師が患者さんにとって最善であると考える治療方法を提示するためには、患者さんの治療に対する想いや考えなどをお伝えいただくことが重要です。

リンパ腫の治療に関して、患者さん自身がインターネットなどを使って調べる際に大切なことはありますか?

医学的な情報もインターネットでいろいろと調べられるようになってきていますが、治療は一人ひとりケースバイケースで、インターネットの情報が全ての患者さんに当てはまるわけではありません。特にリンパ腫はタイプが細かく分かれていて、治療法はタイプによって違ってきます。また、医学の進歩により、新しい治療法も登場してくるため、その情報が最新ではない可能性もあります。
気になることや疑問点がある場合は、患者さんの状態を一番分かっている担当の医師に相談することが大切であると思います。そのうえで、もっとこんな情報を知りたい、他の病院の先生の考えも聞いてみたいなどの想いがあれば、セカンドオピニオンという選択肢もあるため、遠慮せずにその想いを担当の医師へお伝えください。その後の診療が受け難くなるのではないかと心配される必要はありません。

患者さん自身が自分らしさを大切にしながら、
リンパ腫治療へ向き合うために、
先生からのアドバイスをお願いします。

リンパ腫治療では、患者さん自身の想いや考えを大切にして取り組むことが、より良い治療を選択し継続するうえで、重要であると考えています。自分らしさを大切にする選択肢の一つとして、好きなこと=趣味をあきらめないで欲しいと思っています。例えば、体を動かしたり旅行をしたりといった趣味も、治療中で白血球の数が減っているとき以外は、行っていただいて問題ありません。もちろん、無理は禁物ですが、普段のご自身らしい生活を送っていただければと思います。
また、リンパ腫と診断されると、特に治療の初期などは不安を感じられる場面が多いと思われます。ですが、同じように苦しんでおられる方、頑張っておられる方が、日本だけでなく世界中にいます。そして患者さんを支えよう、一緒に頑張ろうと思っている医療スタッフもたくさんいます。患者さんは決して一人ではありません。体のつらさ、心のつらさなど、いつでも医療スタッフにお伝えください。伝えることで心が軽くなることもあると思います。
いろいろなサポートを活用し、自分らしい生活を送りながら、医療スタッフと共にリンパ腫治療へ取り組んでいただきたいと思っています。

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