おしえて先生!リンパ腫のコト

三重大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 講師 
宮崎 香奈 先生

リンパ節の腫れが
気になる方に
知ってほしい
“リンパ腫”のコト

宮崎 香奈 先生

三重大学大学院医学系研究科
血液・腫瘍内科学 講師

インタビュー実施日:
2023年9月11日(月)
Hotel 津 Center Palace

三重県津市にある三重大学医学部附属病院は県内の血液内科と連携をとりながら、リンパ腫の患者さんに最新・最善の治療を提供できるように日々診療を行っています。今回は、三重大学医学部附属病院 血液内科に勤務し、早期診断・早期治療を重視したリンパ腫の診療にあたっている宮崎香奈先生に、リンパ腫の初期症状や血液内科での診療の様子、早めの受診の大切さなどについてお話を伺いました。

三重大学医学部附属病院ではどのように
リンパ腫の診断や治療が行われているのかを教えてください。

リンパ腫は、診断時にどういったタイプのリンパ腫であるかを見極め、患者さんごとに適した治療法を選択することが重要な疾患です。当院ではリンパ腫の診断から治療まで全般的に担っており、専門性の高い治療を受けていただけると自負しております。またリンパ腫は造血器腫瘍(血液のがん)の中でも特に患者数が多いことから、当院でしっかりと診断を行った後に、その後の治療は他の病院にお願いすることもあります。三重県には大学病院が1つしかないこともあって、県内の血液内科を標榜する病院には同門の血液内科医師が必ずいらっしゃいます。そのため関連病院の先生方とすぐに連絡をとることができますし、信頼して患者さんを紹介し合えることから三重県全体で良好な連携がとれているのではないかと思います。逆に診断や治療でお困りのことがあれば県下の先生方からすぐにご相談いただき対応できる体制をとっています。また当院が中心となって行う臨床研究や日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などの他機関共同研究や新しいお薬の治験に参加することで、よりよい治療法を開発できるよう尽力しています。

リンパ腫を疑って受診される患者さんには
どのような症状が多いのでしょうか?

当院は大学病院ということもあり、お近くの病院でリンパ腫を疑われ、ご紹介いただく患者さんがほとんどです。患者さんがお話しになる症状のうち最も多いものは、“リンパ節の腫れ(しこり)”です。
リンパ腫によって生じる”リンパ節の腫れ”の特徴は、サイズが大きいことで、1.5cm以上の腫れを目安としています。そのほかの特徴としては、痛みを伴わない、ゴムまりのような弾力のある硬さ、しこりが動く、などがあります。ただし、リンパ節の腫れができる部位によっては、まれに痛みを伴うこともあります。
腫れは、首やわきの下などのリンパ節のほか、全身どこにでもできる可能性があります。たとえば、胃にできると胃潰瘍のような症状があらわれたり、お腹にできて便秘になったり、足のつけねにできて下肢全体が腫れるなど、腫れができる場所によってさまざまな症状があらわれます。また、リンパ腫のなかには非常にゆっくりと進行するものもありますから、患者さんが腫れに気づかず、定期健診や人間ドックで初めて指摘されることもあります。
風邪のような感染症や服用しているお薬、歯や皮膚の炎症、免疫の病気、ワクチン接種などさまざまな理由によってリンパ節が腫れることがあります。これらは「反応性リンパ節炎」と呼ばれており、リンパ節が腫れる原因のほとんどを占め、もちろんリンパ腫ではありません。サイズが小さくて柔らかく痛みを伴うことなどの特徴がありますので、リンパ節が腫れていた場合はリンパ腫かどうか原因をきちんと調べる必要があります。

リンパ腫を疑って病院を受診した方がいいという
特有の症状はあるのでしょうか?

ひとつのしこりのサイズが1.5cmを超えるような場合や、サイズが徐々に大きくなってきた場合はすぐに受診いただいた方がよいと思います。リンパ腫は全身性の疾患であり、その部位によって症状のあらわれ方が多岐に渡ります。そのためリンパ腫に特有の症状はないと言えます。
症状を限定することは難しいですが、特徴的な症状を挙げると、リンパ節の腫れ(しこり)の他にも、

  1. ①38℃をこえる原因不明の発熱が続く
  2. ②寝具(掛け布団、シーツなど)や寝巻を替えなければならないほどの激しい寝汗
  3. ③6カ月以内に、通常の体重の10%を超える原因不明の体重減少

の3つがあります1)
しかしながら、これらの症状があてはまらない場合もよく経験します。
いつもと違う体調の変化を感じたら、まずはお近くの病院へ受診いただくことが大切だと思います。

気になる症状があるときには、
どのように病院を受診したらよいでしょうか?

気になる症状がある場合には、まずはかかりつけの病院の先生にご相談いただければと思います。一方、人間ドックなどでリンパ節の腫れが見つかって病院に行くように言われた場合は、地域の比較的大きな病院の内科または血液内科を受診していただくことをおすすめします。
症状の伝え方ですが、リンパ節の腫れの場合は、「何年も前から腫れている」、あるいは「1か月前に突然腫れた」など、腫れに気づいた時期をお伝えいただくとよいと思います。リンパ節が腫れる原因はリンパ腫だけではありませんから、医師からは、現在治療中の病気の有無や、日頃服薬しているお薬の情報、感染症の可能性を探るために海外渡航歴などについて、伺うことになると思います。

受診したあとは、どんな検査が行われるのでしょうか?

リンパ腫の検査では、患者さんの状態に応じて、問診・血液検査超音波検査(エコー検査)CT検査MRI検査などを行い、病気のタイプ(病型)、病気の広がりの程度(病期)、病気の進行度(病勢)を確認する必要があります。
血液を詳しく調べるために、採血をする回数や一度に採血する量が多くなってしまうことがあります。そのような場合には検査したい内容と目的、どのくらいの採血量が必要であるかを、患者さんに丁寧にお伝えするようにしています。
またCT検査などの画像検査も行います。こうした検査でリンパ腫が強く疑われるときには、腫れているリンパ節の全部または一部を取り出す「リンパ節生検」という検査も行います。生検によってリンパ腫であることの確定診断を行うとともに、どのタイプのリンパ腫かを診断します。
生検は大切な検査ですが、患者さんの身体に負担がかかる検査でもあります。リンパ節の腫れは、感染症やワクチン接種、服用しているお薬、歯や皮膚の炎症、免疫の病気が原因で起こることもあります。リンパ節の腫れに対して、リンパ腫を診断するための生検が必要かどうかを十分に検討していきます。また、リンパ腫の確定診断の後には、PET-CT検査などを行って病気の広がりの程度も調べます。
どの検査についても、実施前に検査内容や目的を患者さんに説明したうえで、患者さんの同意が得られた場合に実施をしていますので、安心して受診していただければと思います。

リンパ腫と診断されてしまったら、
その後の治療などに不安を感じることもあると思います。

まずお伝えしたいのは、リンパ腫は「血液のがん」とされているものの、リンパ腫のタイプや患者さんの状態によっては良い経過を目指せる可能性のある疾患だということです。
そのため、患者さんの不安を少しでもやわらげ、納得して治療に取り組んでいただけるように、治療前には「治療ゴールまでの道のり」を、治療中には「道のりのどの地点にいるか」を、丁寧に対話することが大切であると考えています。
ただし、リンパ腫の診断を受けた直後の患者さんやご家族は、ショックが大きく、「なんでこんな病気になってしまったのだろう」と病気を受け入れられない時期があります。お話ししたことがなかなか耳に入ってこない、すぐには理解できないこともあると思います。患者さんやご家族が少しでも安心できるように、わたしたち血液内科のスタッフは繰り返しお話しすることを大切にしています。

リンパ腫の詳しい診断や治療が行われる
「血液内科」について教えてください。

リンパ腫の予後や治療法は、リンパ腫のタイプに応じて異なります。血液内科では、治療を始める前に、どのタイプのリンパ腫なのかの見極めを行い、個々のリンパ腫に合わせた最適な治療法を検討しています。リンパ腫は最初にどのような治療を行うかがとても大切です。患者さんの状態に応じた、最善の治療を受けていただくために、わたしたち血液内科医は、日々リンパ腫に関する知識のアップデートに努めることが重要であると考えています。
また、リンパ腫は全身性の疾患であり、さまざまな症状を認めることから最初に血液内科を受診されることが多くありません。そのためリンパ腫の診療に携わっている血液内科の医師は、他の多くの診療科の医師との連携が必要になることが特徴と思います。例えば、首のはれがあれば耳鼻咽喉科、腫れが目の中にできた場合は眼科、麻痺を認めた場合に脳神経外科、原因不明の発熱では総合診療科など、患者さんはさまざまな科で最初に診察を受けます。そのため、可能な限り早期に診断してご紹介いただくためにも、様々な科の先生方と日頃から風通しのよい関係を意識することが大切であると考えています。

気になる症状があって病院に行くべきとわかっていても、
ためらってしまう方に向けて、先生からメッセージをお願いします。

誰にでも病院に行きたくない気持ちはありますし、深刻な病気だと告げられるかもしれないといった恐怖の気持ちがあるかもしれません。
リンパ腫にはいろいろなタイプがあって、ゆっくりと進行するものもあれば、進行のスピードが速いものもあります。特に、進行スピードの速いタイプの場合には、早く発見して、早く治療に取り組むことが、患者さんのより良い予後につながることがあります。また、早期に治療を開始できれば、抗がん剤治療の回数が減ったり、放射線治療で照射する放射線の量が少なくなったりすることで、治療のつらさや副作用といった患者さんの負担が軽減できる可能性もあります。
病院は決して怖いところではありません。ご自身のために、サイズの大きなリンパ節の腫れや、そのほかの気になる症状があるときには、ためらわず受診していただければと思います。

  • 1)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p214-215

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