おしえて先生!リンパ腫のコト

島根大学医学部内科学講座 血液・腫瘍内科学 教授 
鈴木 律朗 先生

家族で話そう、
リンパ腫のコト

鈴木 律朗 先生

島根大学医学部内科学講座
血液・腫瘍内科学 教授

インタビュー実施日:
2023年9月19日(火)
島根大学医学部 共通カンファレンス室

島根県出雲市にある島根大学医学部付属病院 血液内科では、血液疾患を有する患者さんのなかでも、主に他施設では診療が困難なケースや、特殊なタイプの疾患を持つ患者さんを県内外から受け入れています。リンパ腫の診療では、さまざまなタイプのリンパ腫に対応できる体制がとられています。今回は、リンパ腫の診療を専門とされる鈴木律朗先生に、リンパ腫について日ごろからご家族で話し合っていただきたいことなど、アドバイスいただきました。

先生のところでは、どのようなリンパ腫の患者さんを
多く受け入れていらっしゃいますか?

リンパ腫は70種類以上に細かく分類され1)、タイプを踏まえた治療選択が重要となる疾患ですが、なかでも稀なタイプや、薬の治療で治りにくいタイプのリンパ腫となると、血液内科専門医でも対応に悩むケースがあります。また、治療法に関しても、特定の施設でなければ実施できない治療があり、かつ、島根県内では血液内科の専門医を有する施設が限られています。当院では、すべてのタイプのリンパ腫患者さんに対応できることを目指して、造血幹細胞移植や最新の治療法など、現在の日本で可能なすべての治療をおこなえる体制づくりを重視しています。

リンパ腫の患者さんは、
どのような経緯で血液内科の受診に至るのでしょうか?

血液内科への受診に至るパターンとしては、大きく2つのケースが考えられます。1つはクリニックを含む他施設を受診した際にリンパ腫を疑われ、血液内科に紹介されるケースです。もう1つは、腫瘍性の疾患も含め、他疾患が疑われる状態で、当院の他の診療科を受診され、組織検査の結果などからリンパ腫であることがわかり、血液内科に紹介されてくるケースです。

受診のきっかけとなる症状には
どのようなものがあるのでしょうか?

リンパ腫は、全身のほぼすべての臓器に生じる可能性があるため、受診のきっかけとなる症状は患者さんによってさまざまです。一般的にリンパ腫というと、足の付け根や首の周りなどのリンパ節の腫れが初期症状であることが多く、こうしたリンパ節を起源とするリンパ腫は全体の約半分です。残りの半分はリンパ節以外の臓器で発症し、生じる症状は臓器に応じて異なるため、患者さんの訴えもさまざまです。
その他、特徴的な症状としては、「B症状」と呼ばれる全身的な症状も挙げられます2)

  1. ①38℃をこえる原因不明の発熱が続く
  2. ②寝具(掛け布団、シーツなど)や寝巻を替えなければならないほどの激しい寝汗
  3. ③6ヵ月以内に、通常の体重の10%を超える原因不明の体重減少

リンパ節の腫れやこのような症状がある場合には、まずはお近くの病院へ相談してみてください。
当然のことですが、リンパ節の腫れが気になる場合に、必ずリンパ腫と診断されるわけではありません。風邪や他疾患によって腫れている場合もあるため、過度に心配しすぎず、まずは病院に相談するようにしましょう。

リンパ腫についてご存じない患者さんやそのご家族に、
どのように説明されますか?

そもそも「リンパ」と言われて、どういったものを示すのかイメージがわかない方も多いかと思います。
「リンパ」という言葉は、「リンパ球」という細胞の意味で用いられる場合もあれば、「リンパの流れ」を指す場合もありますが、病気の説明では、細胞(リンパ球)に注目して話すようにしています(図1)3)。例えば、「細菌やウイルスから体を守る働きをしている白血球という血液細胞のうち、リンパ球という血球ががん化して増殖し、リンパ節などにしこりをつくる病気が”リンパ腫”である」といった感じです。
また、メディアやドラマの影響かと思いますが、同じ血液疾患のなかでも、白血病についてなら、イメージしやすいという患者さんが多い印象を受けます。
そのため、白血球ががん化する病気として、リンパ腫の他に、白血病や多発性骨髄腫があることや、リンパ腫と白血病は同じ白血球由来の似た病気であるが、異なる点はどこか、など白血病の話を織り交ぜながら説明する場合もあります。

図1:造血の仕組みとリンパ球3)

多能性造血幹細胞が血液細胞を作り出す過程を図解。多能性造血幹細胞はリンパ系前駆細胞と骨髄系前駆細胞に分化する。そこからさらに白血球を構成する単球、好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球などが作り出されていく。
  • 山田幸宏 監修. 看護のための病気のなぜ?ガイドブック, p248-249, 2016, サイオ出版を参考に作成

やはりドラマやメディアなどの影響は大きいのですね。

病気がドラマのなかで描かれたり、著名な方がご自身の病気を公表されたりすると、自分ごと化してその病気のことを考えるきっかけになるケースもあるのではないでしょうか。リンパ腫を例にすると、フリーアナウンサーの笠井信輔さんが発症し、その闘病生活を含めて公表されています。笠井さんが罹患したのは「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(略称 DLBCL)」というリンパ腫全体の約4割を占める病型です4)。病気に関する情報は、正しい内容であることが大切です。特に、インターネットにはさまざまな情報が溢れていて、いたずらに不安をあおるような内容が書かれていることも少なくありません。病気に関する情報を得る際には、何が正しく、何が正しくないかということを見極める姿勢を忘れずに、信用できる機関が発信している内容かどうかという点を重視して欲しいです。

リンパ腫を含む血液疾患の診療において、
ご家族の果たす役割についてどのようにお考えになりますか?

自覚症状があって受診される患者さんのなかには、まず家族が症状に気づかれる場合もあります。医療機関を受診すべきかどうか悩んでいて、家族に背中を押されて受診される方もいらっしゃいます。
また、病気と診断されて治療する段階になって以降の家族の役割というのは、とても大きいものがあると思います。治療の過程で、薬剤の副作用などが、患者さんの負担になってしまうケースも少なくありません。治療開始後に副作用が出たところで、「治療をやめたい」と思う患者さんもいらっしゃいますが、こういった時に、ご家族のサポートが患者さんにとっては心強いものとなります。私たち医療スタッフから治療の必要性を伝えるだけでなく、ご家族からも励ましの言葉を伝えていただくことで、患者さんはつらい治療を乗り越えていくことが可能になると考えています。
身近な存在の人がリンパ腫と診断されると気持ちの整理がつかず、正しい情報を理解するということが難しくなる場合も少なくありません。そのため、いざという時のために備えて、日頃から家族と病気や治療について、話しておくことが大切であると思います。

リンパ腫について家族で話すときに話題にしてほしいことは、
どのようなことでしょうか?

患者数は増えており、血液がんでは最多

リンパ腫は血液がんのなかでは最も多くを占めている病気(図2)5)で、患者数は年々増えています5)。決して他人事と思わずに、まずはリンパ腫という病気があることを、ご家族の間で話題にしていただきたいと思います。

図2:血液がんで2019年の1年間において新たに診断された患者数5)

3大血液がん(リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病)で、2019年の1年間において新たに診断された患者数を疾患別に、棒グラフで記載

調査方法:日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析

  • 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)部位別がん罹患数 (ganjoho.jp:2023 年11 月閲覧)
    より抜粋して作成

年齢層は幅広い

リンパ腫の発症ピークは、70歳代ではありますが5)、リンパ腫のタイプによって発症しやすい年齢は異なります。高齢者が多いタイプもあれば、若い人がかかりやすいタイプもあるため、どの年代でも発症する可能性があることを知っていただきたいと思います。

適切な診断・治療を受けることの大切さ

リンパ腫は、大きくホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けられ、日本人では非ホジキンリンパ腫が約90%を占めます。また、非ホジキンリンパ腫は、その進行スピードによって大きく3つに分類されます6)

  • ●年単位で進行(低悪性度)
  • ●週~月単位で進行(中悪性度)
  • ●日~週単位で進行(高悪性度)

リンパ腫のタイプによっては、適切な治療選択により、通常の生活に戻ることを目指すことができるケースもあります。
早期の相談受診が、より適切な治療選択のために重要になる場合がありますので、気になる症状があるときは、病院への受診をためらわずに医師へ相談する重要性を、日頃から家族で話し合っておいていただきたいと思います。

医療費について

治療の選択は、医療費の問題と密接にかかわっています。最新の治療を受ける場合や、薬剤を複数組み合わせて使用する場合などには、医療費も高額になる傾向がありますので、お金については、いざという時のために、家族で話し合っておいたほうが良いと思います。そして実際に、治療方法を検討する際には、担当医やMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)に相談しながら、患者さんに合った治療方法を選択していただきたいと思います。

受診のためのサポート

患者さんに合った治療方法を選択するという点で、家族が患者さんをサポートするあり方はさまざまです。リンパ腫の治療では、外来で化学療法を行う(通院で抗がん剤治療を受ける)ケースも多いため、通院のために家族などから受けられるサポートはどの程度なのか検討しておくことは重要です。

超高齢化によりがんの罹患が増えるなか、
血液がんでは最も患者数の多いリンパ腫について、
家族で話し合っておくことが大切なのですね。

リンパ腫は、全身性の病気であり症状はさまざまです。多岐に渡るタイプを見極めて、患者さんごとに適切な治療方法を選択することが重要です。リンパ腫の診療の難しいところは、病変の組織が適切に採取できていても、どういうタイプのリンパ腫であるかの診断に難渋するケースがあることです。タイプとしては異なるけれども、その境界が不明瞭なものもあります。そのため、診断に時間を要したり、血液病理の専門医の間でも意見が分かれたりすることもあります。リンパ腫は、こうした特殊性をもつ疾患であるということを理解しておいていただきたいと思います。
その多様な特性ゆえに、リンパ腫特有と言い切れる要素をもっていない疾患だからこそ、日頃から、身近な人と知識や情報を備え、いざという時にお互いの異変に気づき、サポートできる関係性を築いておくことが重要であると思います。この機会をきっかけに、ぜひ「リンパ腫」をご家族の間で話題にしていただければと思います。

  • 1)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p209-213
  • 2)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p214-215
  • 3)山田幸宏 監修. 看護のための病気のなぜ?ガイドブック, p248-249, 2016, サイオ出版
  • 4)Lymphoma Study Group of Japanese Pathologists. Pathol Int. 2000;50:696-702.
  • 5)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(ganjoho.jp:2023年11月閲覧)
  • 6)日本血液学会編:造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章リンパ腫, 金原出版, 2023, p213-214

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