

監修 愛知県がんセンター 病院長 山本 一仁 先生
公開日:2022年9月1日
更新日:2023年3月28日
悪性リンパ腫というがんをご存知ですか?
年間で35,000人以上が発症する※1血液のがん。
白血病や多発性骨髄腫より罹患者数が多く、
じつは、日本でいちばん多い血液のがんです。まずは、知ることで、備えてください。
笠井 信輔さん
1963年 東京都生まれ
フジテレビのアナウンサーとして「とくダネ!」などの情報番組を担当
1990年に結婚し、現在は3人の息子をもつ父親
2019年 フリーアナウンサーに転身後(56歳)、「悪性リンパ腫」と診断・治療
現在は治療を終え、仕事にも復帰している
悪性リンパ腫と診断された時、私は56歳でした。長年勤めたテレビ局のアナウンサーを辞め、フリーに転身してからわずか2ヵ月後のことです。この時、私はこの病気についてほとんど知らなかったのです。がんと診断されたことを受け入れられないなかで、病院や治療法を選択することは、誰にでも難しいことです。しかし、事前に病気に関する知識や情報を得ていれば、いざという時に自分にとって最善の方法を考え選択できると思うのです。
とはいえ、ネットにはさまざまな情報が溢れていて、間違った情報や不確かな情報が真実のように語られていたり、いたずらに不安をあおるような内容が書かれていたりすることも少なくありません。ネットで病気に関する情報を得る際には、情報源が信頼できるかどうかを確認しましょう。信用できる機関が発信している内容は信頼性が高い情報だと思います。どの情報が正確で自分のためになるか、慎重に見極めることが重要であると考えます。
病気になってから初めて知ったのですが、悪性リンパ腫とは、日本成人で最も多くみられる血液のがんで、50歳代くらいから患者さんの割合が増加しはじめます1)。
ご自身やご家族が50歳という年齢に近づいてきたら、こういう病気があるということを念頭において、体調や症状に注意をむけていただき、早期発見に繋げて欲しいと願うばかりです。
悪性リンパ腫とは「血液の悪性腫瘍」で、がんの仲間の一つです。細菌やウイルスから体を守る働きをしている白血球のうち、リンパ球というタイプの血球ががん化(悪性化)する病気です。リンパ組織は全身に存在しており、悪性リンパ腫が進行すると、全身の臓器に広がるおそれがあります。
悪性リンパ腫の年間の患者数は、2017年に新たに診断された患者さんは34,571例(男性18,522例、女性16,046例)1)でした。
悪性リンパ腫は、一般的な健康診断や人間ドックなどでも見つかりにくい病気です。私の場合、排尿困難や腰痛、体重減少が症状として現れました。初めは前立腺肥大と診断されました。病院を変えて再検査もしましたが、やはり同じ診断がつきました。そんなこともあり、排尿困難は前立腺肥大のせいだし、腰痛はぎっくり腰なのだと思っていました。
しかしその後、CT検査で異変がみつかったことで、泌尿器科から腫瘍内科へ移り、そこで初めて悪性リンパ腫と診断されました。がんとわかるまでに4ヵ月かかりました。
私が経験した腰痛や体重減少などの症状が悪性リンパ腫にもみられる症状だと知っていれば、より早いタイミングで必要な診療科を受診できていたかも知れません。
悪性リンパ腫にはたくさんの種類があり、種類や病期ごとに治療は異なります。現在、気になる症状がある方は、まずは病院を受診してみるという選択肢をとって頂きたいです。
悪性リンパ腫の初期には、リンパ節の多い部分で、痛みのないしこりがみられます。このしこりが、数週から数ヵ月にわたって大きくなり続け、リンパ腫が広がって病状が進むと、さまざまな全身的な症状があらわれるようになります。また、リンパ腫がほかの臓器や器官に広がると、広がった先によって異なる、特有の症状がみられるようになります。
症状が悪化する前に治療が開始できるように、気になる症状がある方は、そのままにしないことが大切です。ぜひ、医療機関を受診しましょう。
治療法に関しては先生から提案していただき、私も家族も納得してその治療を行うことに決めました。それまでの過程では、セカンドオピニオンを受けてみたり、他にどのような治療法があるのか先生に質問したり、自分で調べたりもしました。治療は日々進歩しており、個々の患者さんに応じた治療法を選ぶことも可能になってきています。「これが一番良い治療だ」と自身が納得して治療に向き合うためにも、積極的に情報を入手して選択肢を知ったうえで、自分の病状に一番詳しい主治医の先生を信じて、しっかりと相談することが大事なのだと感じました。
また、抗がん剤治療は副作用を伴うことがありますが、痛み止めや制吐剤のような、副作用の苦しみの軽減を目的とした薬剤も開発されています。がんの医療は、5~10年前と比べても、良い形で治療を受けられるようになってきています。
進歩し続ける医療の力を借りて、治療中の生活の質(QOL)も大事にしながら、ご自分にあった治療法を先生と一緒に探っていただきたいと願っています。
がんを治療中の皆さんには、どうか周りで支えてくれる人々の力を借りて、自分らしく病気に立ち向かっていただきたいと思っています。
がんと知って、私自身はうろたえ、泣き、そして家族に励まされました。がんの治療を通して、わかったことがたくさんありました。入院前、病気になる前に、そうした情報を得ることができたら、病気に立ち向かう上で力になれるのではないかと思い、私は経験してきたことを、できる限りお話しするようにしています。それを知っていただくのが今の自分の仕事であり、私らしい病気への立ち向かい方だと思っています。
悪性リンパ腫の治療は、薬物療法、放射線療法、造血幹細胞移植などが主な治療となります。これらの治療法の中から、悪性リンパ腫の種類、病期、予後予測の結果、患者さんの希望やライフスタイルなどに合わせて、最も適切な治療を選びます。そのため、悪性リンパ腫の種類によって、治療方針は異なります。場合によっては、経過観察を行うこともあります。