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腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)

~先生からのメッセージ~

脇の下のリンパ節は腋窩リンパ節と呼ばれ、乳がんが最も転移しやすい部位です。また、転移の個数がその後の患者さんの予後と相関があることも知られています1)
そのため昔は乳がんと診断を受けると、乳房の手術と同時に脇の下のリンパ節を取り除く腋窩リンパ節郭清が行われていました。しかし腋窩リンパ節郭清では、上肢のリンパ浮腫(手術側の腕がパンパンに腫れてしまうこと)や、二の腕の内側の皮膚の感覚異常、腕の可動域制限(腕が上がりにくくなる)といった合併症が高頻度で生じることが問題となります。
術後の患者さんの生活の質を守るために、最近では乳房の手術と同時に腋窩リンパ節郭清の必要性を判断して、不要な腋窩リンパ節郭清を避ける方法が世界中で実施されています2)
医学の進歩が、がんが治るという治療成績だけでなく患者さんの治療の後遺症軽減にも寄与していることがわかる、よい例ではないでしょうか。

  • 1)Fisher B, et al. Cancer 52: 1551-1557. 1983.

  • 2)参考:日本乳癌学会編:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版, 金原出版, 2019, P93-4

腋窩リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検

乳がんと診断されると、手術前には触診と画像検査(超音波検査、CT、MRIなど)2)によって転移を疑うリンパ節の腫れがないかどうかの確認が行われます。この検査によって腋窩リンパ節への転移が疑われた場合は、穿刺吸引細胞診もしくは針生検が行われて、細胞・組織学的転移の有無を確認します。腋窩リンパ節転移があると診断された場合は、腋窩リンパ節郭清を行います。これらの検査では腋窩リンパ節転移がないとされた場合は、乳房の手術時に組織レベルで腋窩リンパ節転移がないかを判断するために、センチネルリンパ節生検を行います。

<郭清の範囲>
リンパ節転移の広がる順に合わせて、どの範囲まで郭清するかが定められています。
現在では合併症予防のため、郭清はレベルⅠ、Ⅱまでにとどめ、大きく腫れたリンパ節がある場合のみレベルⅢでの郭清を行うようになっています。
なおリンパ節は脂肪に埋め込まれるように存在しているため3)、ごく小さな転移も逃さず切除できるように、周囲の脂肪組織も一緒に切除します。
(イメージ図)
郭清のレベルⅠ、Ⅱ、Ⅲの範囲をイメージ図で表現。
センチネルリンパ節生検

画像検査や触診では腋窩リンパ節の腫れが確認できなくても、実際には目に見えない小さながん細胞が腋窩リンパ節に存在している可能性があります。
そのような小さな転移も逃さず発見するために行われるのが、センチネルリンパ節生検です4)
センチネルリンパ節とは、乳房内のがん細胞が最初に到着するリンパ節のことです。腫瘍のある部位によってどのリンパ節がセンチネルリンパ節となるかは異なるため、手術前にセンチネルリンパ節を特定するための処置が行われます。腫瘍の周囲や乳輪に色素や放射性同位元素を注射し、放射線が検出されたり染色されたりしたリンパ節をセンチネルリンパ節とする、という方法がガイドラインでは推奨されています2)

(イメージ図)
センチネルリンパ節生検のイメージ図

特定されたセンチネルリンパ節は手術の際に切除され、手術中に行われる病理検査によってがん細胞の有無を確認します。
この検査でがん細胞が見つかった場合は、その先のリンパ節にもがん細胞が広がっている可能性が高いと判断され、腋窩リンパ節郭清の対象となります。がん細胞が見つからなかった場合は、それ以上のリンパ節転移はないと判断され腋窩郭清は安心して省略することができます。
センチネルリンパ節に転移があっても、その大きさや数やが一定の条件を満たせば、腋窩リンパ節郭清を省略してもその後の生存率や遠隔再発率は変わらない、という研究結果が2011年に報告されていました5)。それ以来、乳房温存手術を行う患者さんにおいてはセンチネルリンパ節に転移が2個までであれば、腋窩郭清の省略も可能になっています5)

  • 2)参考:日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン 2018年版 Ver. 5/2021年3月31日改訂, 2021

  • 3)参考:日本乳癌学会編:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版, 金原出版, 2019, P96

  • 4)井本滋ほか:乳癌の臨床 1999;14(4):491-4.

  • 5)参考:日本乳癌学会編:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版, 金原出版, 2019, P94

腋窩リンパ節郭清

腋窩に広がったがんを取り除き、その広がりと個数を確認すること、そして再発を予防することが腋窩リンパ節郭清の目的です。取り出したリンパ節は病理検査を行い、組織学的に転移があるのか、いくつの転移があるのかなどを確認します。この結果により再発リスクを評価し、術後の治療方針決定に役立てます。

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