採取した細胞から乳がんのサブタイプがわかります
~先生からのメッセージ~
もし乳がんであった場合、自分のがんがどのような種類で、どういった治療法が効果があるのかを知ることは、とても重要です。
乳がんの種類をサブタイプといいますが、医師は精密検査で採取した細胞からサブタイプを判定し、このサブタイプに基づいて、個々の患者さんにとって適切な治療法を選択するのです。
大きな治療(手術や抗がん剤治療など)を始める前に、どの治療法が最適なのかを調べられることは、これから治療に臨むかもしれない方にとって希望となるのではないでしょうか。
乳がんのサブタイプ分類
乳がんのサブタイプは、何によって増殖するか(女性ホルモンまたはHER2タンパク)によって簡易的に決定されます。
ホルモン受容体陽性 | ホルモン受容体陰性 | ||
---|---|---|---|
増殖 | 活発でない | 活発 | |
HER2陰性 | ホルモン受容体陽性/HER2陰性 ルミナルA |
ホルモン受容体陽性/HER2陰性 ルミナルB |
トリプルネガティブ (ホルモン受容体陰性/HER2陰性) |
HER2陽性 | ホルモン受容体陽性/HER2陽性 | ホルモン受容体陰性/HER2陽性 |
サブタイプ別推奨される治療法
ホルモン受容体陽性/HER2陰性乳がん
ホルモン受容体陽性/HER2陽性乳がん
ホルモン受容体陰性/HER2陽性乳がん
トリプルネガティブ乳がん
ホルモン療法や抗HER2療法は無効なので、化学療法を行います。最近の研究ではトリプルネガティブ乳がんの中にさらにいくつかのタイプがあることが分かってきました1)。
PD-L1という物質が発現しているタイプのトリプルネガティブ乳がんには、がん細胞に対する免疫力を高める免疫チェックポイント阻害薬が新しい治療選択肢として登場し、転移・再発乳がん患者さんに使えるようになりました。PD-L1と免疫チェックポイント阻害薬については、下記のコラムをご参照ください。
免疫チェックポイント阻害薬って?
免疫の力でがんを攻撃する、免疫療法という治療法を聞いたことはあるでしょうか?
乳がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬というお薬で、がん細胞に対する免疫力を高める治療法の有効性が確認されています。
免疫細胞は病原菌などの異物を攻撃する役割を担っていますが、同時に不適切な攻撃や過剰な炎症を抑制する機能も備えています。この抑制機能は、免疫細胞表面に発現する免疫チェックポイント分子に特定の物質が結合することで働きます。
がん細胞の表面に免疫チェックポイント分子に結合する物質が発現すると、がん細胞は免疫細胞の攻撃を逃れて増殖すると考えられています。
免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫チェックポイント分子とがん細胞表面の物質の結合を防いで、免疫細胞が正常に機能するように働きかけるお薬です。
乳がんの場合は、がん細胞表面にPD-L1という物質が発現し、免疫細胞表面のPD-1という免疫チェックポイント分子と結合することで免疫細胞の攻撃を逃れます。PD-L1が発現した乳がんを、PD-L1陽性乳がんといいます。
サブタイプと生存期間の関連
乳がんのサブタイプにはよく見られるものとあまり見られないものがあり、またそれぞれの生存期間にも傾向があります。
2004年の日本乳癌学会患者登録データを利用した研究1)では、日本人の乳がん患者さん11,705人における各サブタイプの内訳は下図のとおりでした。
同じく2004年の日本乳癌学会患者登録データを利用して5年生存率を調べた研究2)では、登録された患者さんをサブタイプで分類した場合の5年無再発生存率※1は下図のように分かれていました。
その結果、5年後も再発のない状態が継続している可能性が最も高いのはホルモン受容体陽性/HER2陰性乳がん、続いてホルモン受容体陽性/HER2陽性乳がん、ホルモン受容体陰性/HER2陽性乳がん、そしてトリプルネガティブ乳がんでした。この研究ではどのような治療をしたかは考慮されていないため、必ずしもこの結果がすべての患者さんに当てはまるわけではありません。それぞれのサブタイプに推奨される治療を行い、可能なかぎり再発のリスクを抑えることが重要です。