肺がんの検査肺がんの検査方法

腫瘍マーカーとは?

血液検査から肺がんを調べる

腫瘍マーカーとは、がんが産生する特殊な物質やがん細胞に反応して正常な細胞が産生する物質を指し、血液検査などで測定します。これらの物質を測定することにより、がんの進み具合いやがんの性質、治療効果などを調べることができます。
肺がんの主な腫瘍マーカーとしては、小細胞肺がんではNSEとProGRP、非小細胞肺がんでは、CYFRA21-1、SCC抗原、CEA、SLX、CA125が判定に使われています。
ただし、腫瘍マーカーは、がんがなくても異常値を示したり(偽陽性)、値が正常でもがんが見つかったり(偽陰性)することもあるため、いずれも補助的な手段として用いられます。

NSE(神経特異エノラーゼ)

NSEは、神経組織および神経内分泌細胞に存在する酵素のひとつで、腫瘍マーカーです。肺がんでの陽性率は60~80%であり、病状の進行と相関して値が上昇します。偽陽性率は約5%とされ、溶血時や腎障害を持つ方の透析後に値が上昇することがあります。

ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)

ProGRPは、日本の国立がんセンターが中心となって開発した腫瘍マーカーです。肺がんでの陽性率は35~80%であり、NSEよりも早期から値の上昇が見られます。偽陽性率は約3%とされ、4歳未満の小児では高値の傾向があり、肺疾患や腎疾患でも高値を示すことがあります。

CYFRA21-1(シフラ21-1)

CYFRA21-1は、非小細胞肺がんの中でも特に扁平上皮がんで特異性が高い腫瘍マーカーです。肺がんでの陽性率は40~80%であり、SCCよりも高い陽性率を示します。偽陽性率は約10%とされ、頻度は少ないですが肺疾患の場合に数値が上昇することがあります。

SCC(扁平上皮がん関連)抗原

SCC抗原は、扁平上皮がんで特異性が高い腫瘍マーカーです。肺がんでの陽性率は25~70%、偽陽性率は約15%とされています。炎症性の皮膚疾患や呼吸器疾患がある場合に高値を示すことがあります。

CEA(がん胎児性抗原)

CEAは、もともとは大腸がんから分離された糖タンパクで、がん細胞同士が接着するのに必要なタンパクと考えられています。胎児の消化管にも存在することから、がん胎児性抗原と名づけられました。さまざまながんで高値を示す汎用的な腫瘍マーカーで、肺がんでの陽性率は20~70%、偽陽性率は約25%とされています。喫煙や加齢によって上昇することがあります。

SLX(シアリルLex-i抗原)

SLXは、非小細胞肺がんの中でも特に腺がんで特異性が高い腫瘍マーカーです。肺がんでの陽性率は5~80%であり、偽陽性率は約10%とされています。慢性の肺疾患などで高値を示すことがあります。

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CA125(糖鎖抗原125)

CA125は、エストロゲン(女性ホルモンの一種)によって産生が亢進するタンパクで、肺がんの他に乳がんや卵巣がんで特異性が高い腫瘍マーカーです。月経時や妊娠時に上昇する傾向があり、子宮内膜症や腹膜炎などでも高値を示すことがあります。閉経後や卵巣摘除した女性では基準値が低くなります。

表:肺がんの各腫瘍マーカーの特徴

※横スクロールにて全体をご確認いただけます。

腫瘍マーカー 基準値 特徴
NSE 神経特異エノラーゼ 10.0ng/mL以下(IRMA法、RIA法、EIA法) 小細胞肺がんの他に神経芽細胞腫などに特異性が高い
ProGRP ガストリン放出ペプチド前駆体 70.0pg/mL未満(EIA法) 小細胞肺がんに特異性が高い。NSEと合わせて検査する
CYFRA21-1 シフラ21-1 2.0ng/mL以下(RIA法)
3.5ng/mL以下(EIA法)
肺がんの中でも特に扁平上皮がんで特異性が高い
SCC抗原 扁平上皮がん関連抗原 2.0 ng /mL以下(IRMA法、RIA法)
1.5ng/mL以下(EIA法)
肺の扁平上皮がんで特異性が高いが、子宮がん、食道がんでも高くなる
CEA がん胎児性抗原 2.5ng/mL(RIA法)
5.0ng/mL(EIA法)
全肺がんで陽性率が高いが、胃がん、大腸がん、膵臓がんでも高くなる
SLX シアリルLex-i抗原 38.0Ug/mL以下(RIA法) 肺腺がんで特異性が高い
CA125 糖鎖抗原125 35.0U/mL以下(RIA法)
25 U/mL以下(RIA法、男性および閉経後女性)
肺がんの他、乳がん、卵巣がんなどでも高くなる

RIA:放射線免疫試験、EIA:酵素免疫定量法、IRMA:免疫放射定量測定法

渡辺俊一他監修:国立がん研究センターの肺がんの本. 小学館クリエイティブ. p107. 2018より改変

腫瘍マーカーのみでは肺がんの診断はできない

腫瘍マーカーは、治療効果を見る目安としての役割や、経過観察中に再発が疑われたときなど、補助的な手段として用いられます。腫瘍マーカーの数値だけで肺がんと診断することはできません。このように、血液検査から肺がんの診断をしたり、将来的に肺がんになりやすいかを調べたりすることはできません。

図:血液検査

血液中の癌細胞の遺伝子から治療法を決める

血液中の腫瘍マーカーから肺癌と診断することはできませんが、肺癌の遺伝子検査のひとつとして、血液中に漏れ出た癌細胞の遺伝子を調べ、癌の性質を診断する検査が「リキッドバイオプシー」です。
現在は、分子標的薬による治療を検討する際に使用されています。

参考文献

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