監修 愛知県がんセンター 病院長
山本 一仁 先生
- 低悪性度のリンパ腫にはどんなものがありますか?
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低悪性度のリンパ腫はインドレントリンパ腫とも呼ばれ、年単位で緩やかに進行するリンパ腫です。腫瘍量が少ない場合は、経過観察も可能となります。代表的なものとしては、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫などがあります。
濾胞性リンパ腫(FL)
- 特徴
- 日本ではリンパ腫の約10~20%を占めており、近年では増加がみられます1)。高齢者に多くみられます2)。
- 治療
- ほとんどの患者さんは、リンパ節の腫れによって濾胞性リンパ腫が見つかりますが、首や胸、おなかなどのリンパ節が腫れるほかは、自覚症状はあまりみられないため、診断時には進行期に入っており、骨髄浸潤を認めることも多くあります。一般的に経過がゆるやかで、治療初期は化学療法が有効ですが、再発率が高く、完全に治すことが難しいため、治療方針としては、病気と上手く付き合うことを目標とします。一部のものはアグレッシブ(中・高悪性度)リンパ腫として治療されることもあります。
<限局期>
放射線治療または、進行期と同様の治療を行います。
<進行期>
腫瘍の量に応じて治療方針が異なります。腫瘍の量が少ない場合には無治療で経過を観察するか、分子標的薬のみを投与して治療を行います。腫瘍の量が多い場合には、分子標的薬と化学療法を併用します。場合によっては維持療法を行います。
<再発した場合>
アグレッシブリンパ腫への変化(組織学的形質転換)がみられる場合があります。そのため、再度、病理検査を行うことが有用です。
再発に対する標準治療は確立していませんが、無治療経過観察や局所治療、分子標的薬の投与、化学療法、造血幹細胞移植などが治療選択肢となります。
形質転換している場合には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に変化していることが多く、その場合には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療方針に準じます。
もっと詳しく知りたい方はこちら
国立がん研究センター がん情報サービス
「それぞれのがんの解説
濾胞性リンパ腫」
[2023年10月10日閲覧]
(別ウィンドウで開きます)
皮膚リンパ腫
皮膚組織中のリンパ球ががん化したリンパ腫です。確定診断で皮膚生検を行います。
菌状息肉症(MF)
- 特徴
- リンパ腫全体の中での発症割合は0.5%ほどで、男性での発症が多いです1)。分類には、皮膚病変の広がりと性状(T)、リンパ節の病変(N)、内臓病変の有無(M)、血液中の異型リンパ球の割合(B)によって評価するTNMB分類2)が用いられます。これにより、病期は9段階に分類されます。
- 症状
- かゆみや痛みがほとんどなく、淡い紅色や褐色などの発疹があらわれる紅斑期、発疹の色調が鮮やかになり、ふくらんだ状態になる局面期、1cm以上の腫瘤あるいは潰瘍のようながんが増殖する腫瘍期に分けられます。紅斑期から局面期までは進行がゆっくりであるとされています。腫瘍期で病気が進行すると、病変の体表面積が増え、さらにリンパ節などの臓器を始めとして全身に病変が広がります。
- 治療
- 病変が皮膚のみにとどまっている場合は、紫外線療法や病変に対する薬物療法、放射線治療を行います。進行した場合には、全身に対する化学療法を行います。
セザリー症候群
- 特徴
- 菌状息肉症において、皮膚病変が体表面積の80%以上(紅皮症)となり、リンパ腫細胞が末梢血で認められた場合、セザリー症候群と診断されます。菌状息肉症のⅣ期にあたり、皮膚T細胞性リンパ腫の1つです。男性に多くみられ1)、発症年齢は主に60歳以上であるといわれています。
- 治療
- セザリー症候群ではリンパ腫細胞が全身で増殖していくため、皮膚に対する治療と合わせて、全身に対して化学療法を行います。
もっと詳しく知りたい方はこちら 国立がん研究センター がん情報サービス 「それぞれのがんの解説 皮膚のリンパ腫」 [2023年10月10日閲覧] (別ウィンドウで開きます)
MALTリンパ腫
- 特徴
- リンパ腫の中でも発症頻度が低いリンパ腫で、高齢者に多くみられます。胃のリンパ腫のうち約40%を占めています3)。通常は、1つの臓器に限局して発症するとされています。経過はゆっくりで、症状はあまりみられません。
発症原因として、感染症や炎症が関係しているといわれていますが、胃MALTリンパ腫では、ピロリ菌に高い割合で感染していることが指摘されています。 - 治療
- MALTリンパ腫の治療方針は、原発部位や病期に合わせて決定します。原発部位は、胃と胃以外の臓器に大きく分けられています。
<限局期>
胃MALTリンパ腫でピロリ菌感染を確認し、陽性の場合には除菌を行います。除菌療法の効果がみられなかった場合や、ピロリ菌陰性の場合や胃MALTリンパ腫以外の場合には、放射線治療を行います。さらに効果がない場合には化学療法を行います。
<進行期や限局期で放射線治療の効果がなかった場合>
濾胞性リンパ腫の治療方針に準じて、化学療法や無治療での経過観察を実施します。
もっと詳しく知りたい方はこちら 国立がん研究センター がん情報サービス 「それぞれのがんの解説 MALTリンパ腫」 [2023年10月10日閲覧] (別ウィンドウで開きます)
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)
- 特徴
- 発症頻度は低く、まれな病気です。60歳代での発症が多く、また、男性にやや多い傾向とされます。
- 症状
- 初期には貧血によるだるさや、疲れやすさなどがあらわれます。血液中に異常な免疫グロブリン(Mタンパク)が増加するIgM型M蛋白血症がみられるようになると、過粘稠症候群を来たし、視力障害や脳血管障害を発症することがあります。なお、骨髄浸潤とIgM型M蛋白血症を伴う場合には、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)と呼ばれます。
- 治療
- 症状がみられない場合には無治療で経過観察を行います。症状があらわれた場合には、過粘稠症候群に対する血漿交換法や、化学療法を開始します。
もっと詳しく知りたい方はこちら
国立がん研究センター がん情報サービス
「それぞれのがんの解説
リンパ形質細胞性リンパ腫」
[2023年10月10日閲覧]
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慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)
- 特徴
- 日本での発症は非常に少なく、慢性リンパ性白血病で年間10万人に0.3人前後のまれな病気とされています。50歳以降に多く発症し、また、男性が多く発症します。リンパ球のうち、成熟した小型のBリンパ球ががん化し、増殖する病気です。増殖した腫瘍細胞が末梢血や骨髄にある場合は慢性リンパ性白血病とされ、リンパ節にある場合は小リンパ球性リンパ腫とされます。初期症状がほとんどないため、健康診断で白血球数の異常が指摘されたことで、発見されることもあります。
- 治療
- 慢性リンパ性白血病の治療は、関連症状が出た場合に化学療法を中心に行います(⇒慢性リンパ性白血病の治療のページへ)。
小リンパ球性リンパ腫の治療は、低悪性度B細胞リンパ腫である「濾胞性リンパ腫」「MALTリンパ腫」に準じて行います。