おしえて先生!肺がんのコト

本庄 統 先生
(札幌南三条病院 呼吸器内科 主任医長)

「もう少し早く
見つかっていれば…」

そう悔やまないためにも、
肺の状態は定期的に検査しよう

本庄 統 先生
(札幌南三条病院 呼吸器内科 主任医長)

北海道札幌市にある札幌南三条病院は、呼吸器疾患のうち特に肺がんの診療を中心とした医療を行っています。今回は札幌南三条病院に勤務し、日々肺がんの患者さんと接している本庄 統 先生に、肺がんを早期に発見する意義について教えていただきました。

おしえて
先生!
肺がんはどのように発見されることが多いのでしょうか。

長引く咳や、血の混じった痰で近隣のクリニックを受診し、胸部X線検査で異常を指摘されて当院を紹介されて来院される方が多いです。しかし、症状が出てから発見される肺がんのほとんどは、残念ながら進行がんなのです。
進行がんになってしまうと、治療目標が「根治」ではなくて「延命」や「生活の質(QOL)の維持」になります。肺がんをできるだけ早期に発見するには、定期的な健康診断で肺の状態を確認しておくことが重要です。
お勤めされている方は定期的に健康診断を受けることが多いと思います。一方、自営業や主婦の方などは、人間ドックや各自治体が行っている健康診断やがん検診を自主的に受ける必要があります。このような方々の健康診断の受診率を上げていくことは、健康先進国を目指すわが国の課題の1つです。
私が勤務する札幌南三条病院がある北海道は、2020年の肺がん死亡率(都道府県別75歳未満年齢調整がん死亡率)が、男性で全国ワースト2位、女性は全国ワースト1位でした1)。地域としても肺がんの早期発見・早期治療は大きな課題となっています。北海道という土地柄、面積が広いため、早期発見の取り組みや治療にあたっては医療機関同士の連携が重要となります。それぞれの地域での取り組みと連携をとったうえで、遠隔地だからといって肺がんの発見や治療が遅れないように、私も地域での肺がんの啓発や治療に積極的に介入するようにしています。

おしえて
先生!
肺がんは男性が多いイメージがありますが、女性も注意が必要ですか?

男女ともに肺がん患者さんの数は年々増加しています2)。確かに女性に比べて男性の方が罹患率は高いです。しかし、女性でも肺がんは乳がん、大腸がんに次いで3番目に高い罹患率2)になりますので注意が必要です。主婦の方などは、家族のことを優先して自分のことは二の次になりがちです。乳がんの検診と肺がんの検診を同日にできるところもありますので「自分は大丈夫」と過信せずに、積極的に検診を受けていただきたいと思います。

おしえて
先生!
早期に肺がんを発見できると、肺がんは治る可能性があるのでしょうか?

ステージ1といった非常に早い段階で発見できれば、治療で根治を目指すことができます。がんの治療成績の指標としては「5年生存率」が用いられることが多いのですが、ステージ1の非小細胞肺がんという種類の肺がん患者さんの5年生存率は80%以上です3)。そのため、健康診断や肺がん検診で肺に異常を指摘されたら、病院を受診して胸部CT検査を行っていただくことを強くおすすめします。専門医のところでCTを撮って確認してもらうだけで、その後の人生を大きく変えられるかもしれません。

表:2013~2014年診断患者さんにおける病期別の5年生存率
病期
(ステージ)
5年生存率
小細胞肺がん 非小細胞肺がん
Ⅰ期
(ステージ1)
44.7% 84.1%
Ⅱ期
(ステージ2)
31.2% 54.4%
Ⅲ期
(ステージ3)
17.9% 29.9%
Ⅳ期
(ステージ4)
1.9% 8.1%

がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2013~2014年5年生存率集計 報告書より作図
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_2013-2014.pdf(PDFファイルで開きます)
(閲覧日:2022年5月6日)

残念ながら、健康診断で肺に異常を指摘されても、その後、病院を受診しない方が結構いらっしゃいます。健康診断の胸部X線検査で異常が指摘されることは比較的多いため、周囲の人から「私も要精密検査だったけど大丈夫だったよ」と言われると、「自分も大丈夫だろう」と勝手に判断してしまいがちです。しかし、異常が指摘された際は専門医を受診して、大丈夫かどうかしっかりと確認することが非常に重要です。翌年の検診で再度指摘されて、ようやく受診したときには進行がんになってしまっているケースもあります。

おしえて
先生!
気になる症状がある場合や、健康診断の胸部X線検査で異常が指摘された場合は、どのような病院に行ったらよいでしょうか。

呼吸器内科を標榜しているクリニックで相談するのがよいと思います。肺がんのスクリーニングとして、早いタイミングで胸部X線検査やCT検査を実施してもらえます。
気になる症状があるときに「自分の病気は何だろう?」と、あふれる情報から信頼できる情報を自らが吟味するのは、なかなか難しいものです。そういうときのためにも、相談できる医師を見つけておくことは大切です。

おしえて
先生!
もし、肺がんになってしまったら・・・。

肺がんの治療は日々進歩しています。私が医師になりたての頃から比べると、生存期間は年単位で延びています。10年前だったら治療が困難だった方々も、新しい治療薬が開発されたことで前向きに人生を送れるようになってきました。病気のステージや進行度合いで治療の目標を定め、あなたに合った治療を一緒に探していきましょう。
とはいえ、「もう少し早く見つかっていれば・・・」と悔やんでも悔やみきれないケースも少なくないのは事実です。健康診断や肺がん検診で定期的に肺の状態を確認し、異常がみられたら専門医に相談することを意識してもらえればと思います。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))

  2. 2)がん研究振興財団:がんの統計2022, 2022年3月, p23.

  3. 3)がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2010~2011年5年生存率集計 報告書

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