おしえて先生!肺がんのコト

豊澤 亮 先生
(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 呼吸器腫瘍科)

若い方も非喫煙者も
肺がんになる可能性はあります

要検査になったら早めの受診を

豊澤 亮 先生
(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 呼吸器腫瘍科)

福岡県福岡市にある九州がんセンターは、がんの専門病院として地域のがん診療連携の中心的役割を担っています。今回は九州がんセンターに勤務し、肺がん専門医として患者さんに寄り添う診療を大切にしている豊澤 亮 先生に、肺がんの早期発見のポイントや肺がんのリスクについて教えていただきました。

おしえて
先生!
肺がんの早期発見のためには、どのような検査を受けるとよいのでしょうか?

肺がん検診として胸部レントゲン検査を受けている方は多いと思うのですが、レントゲン検査だけでは発見できる肺がんに限界があります。レントゲン検査では早期の小さな肺がんを見つけることができないケースもあるのです。その点、胸部CT検査はレントゲン検査に比べて得られる情報量が多く、小さながんの早期発見に有効です。手術可能な早期のがんを見つけるために、胸部のCT検査を受けることをお勧めしています。
私が診ている肺がん患者さんのなかにも「毎年レントゲン検査を受けていて異常はなかったのに、いつがんができたのですか?」とおっしゃる方もいます。そこで私は、肺がん検診が推奨される40歳を過ぎたら1)、早期の小さながんも逃さず発見するために定期的な胸部CT検査での肺がん検診をおすすめしています。同様に、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)での胃がん検診や、大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)での大腸がん検診も定期的に行っていただきたいですね。

厚生労働省が勧めるがん検診の種類
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2022年9月9日)

おしえて
先生!
検診で要検査と出た場合、どうすればよいのでしょうか?

できるだけ早く病院で精密検査を受けてください。検診を受けて要検査の結果が出ても、「いまは忙しいから、時間ができたら病院に行こう」、「症状がないからまだ大丈夫だろう」などと自己判断して、すぐに病院を受診されない方が多くいらっしゃいます。お勤めしている方の場合、職場での検診は「強制的に受けさせられている」という感覚を持っている方もいるようで、異常を指摘されても放っておいてしまうケースも多いようです。せっかく検診を受けて異常が見つかっても、病院に行くという行動に移さない限り、早期発見・治療にはつながりません。検診を受けている意味がなくなってしまいます。
福岡県は大学病院や専門の施設だけでなく、地域に根差した一般の病院でもCT検査ができるような設備の整った施設が多い印象です。がん検診の受診率を高めていく働きかけに加えて、検診で異常が見つかった場合にしっかりと精密検査を受けてもらうよう、検診の意義を理解してもらう働きかけもしていきたいですね。一方で、受け入れ側としても検査を行う病院と九州がんセンターがしっかりと連携していくことが大切だと考えていますので、近隣の病院の先生方と診断や治療に関する勉強会を定期的に行って連携を深めるようにしています。

おしえて
先生!
若い人や普段タバコを吸っていない人の場合、肺がんはあまり関係ないと思ってしまう人も多いと思います。そういった方も肺がんのリスクはあるのでしょうか?

肺がんのリスクが高いのはもちろん喫煙者ですが、タバコを吸わない方や女性、若い方でも肺がんになる可能性があるので注意が必要です。
肺がんは「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の大きく2種類に分けられます。「非小細胞肺がん」は、肺がん全体の8~9割を占め、「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分類されます。このなかで最も多いのは「腺がん」で、肺がん全体の5~6割を占めます(図1)。この肺腺がんは、タバコを吸わない方や女性、そして若い方にも起こることが多いのが特徴です2)。タバコを吸わない方も若い方も「今の自分に肺がんは関係ない」と思わず、検診で異常が見つかったり、気になる症状があったりする場合は、すぐに医師に相談してもらうことが重要です。

図1:非小細胞肺がんの割合

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版. 図 日本における肺がんの病理組織分類.p18.
金原出版.より改変

・本著作物は日本肺癌学会が作成及び発行したものであり、本著作物の内容に関する質問、問い合わせ等は
日本肺癌学会にご連絡ください。

・中外製薬は日本肺癌学会から許諾を得て、本著作物を複製し使用しています。

おしえて
先生!
肺がんと診断されたら、受け止めきれないような気がします。

不安になってしまうのは当然です。しかし、肺がんに対する研究は日々進歩しており、患者さんそれぞれの病態やがんのタイプに合わせて手術療法や薬物療法、放射線療法といった治療法から適切なものを選択して治療を行えるようになっています。例えば肺腺がんは、遺伝子変異と関連があるとされていますが、その遺伝子変異のうち治療の標的となる約7割の遺伝子変異が解明されています3)。遺伝子検査を行って遺伝子変異があれば、そのタイプに合った治療薬による治療が選択されます(図2)。このように、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、患者さん一人一人に適した治療を「個別化治療」や「オーダーメイド治療」と呼びます。
肺がんと診断されても悲観せずに、医師とともに治療を決めていき、前向きに治療に取り組んでいただきたいと思っています。

図2:遺伝子検査とPD-L1検査

肺がんの確定後、遺伝子検査を行い、がん細胞増殖にかかわる8つの遺伝子変異の有無を調べます。8つの遺伝子とはEGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET、RET、KRASです。これらの遺伝子に変異が見つかった場合、それぞれの遺伝子を標的にした分子標的薬を使います。これらの遺伝子に変異が見つからなかった場合、PD-L1検査を行い、免疫治療薬が効くかを調べます。

いずれにせよ、肺がんはできるだけ早期に発見・治療することが肝心です。そのためにも、定期的にCT検査での肺がん検診を受け、要検査になったらすぐに受診するということを心に留めていただきたいです。

  1. 1)日本CT検診学会理事会・ガイドライン委員会:肺がんCT検診ガイドライン
    「日本における低線量CTによる肺がん検診の考え方」,2013

  2. 2)Zang EA, et al.: J Natl Cancer Inst. 1996;88(3-4):183-92.

  3. 3)Saito M, et al.: Cancer Sci. 2016;107(6):713-20.

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