おしえて先生!肺がんのコト

坂本 博昭 先生
(弘前大学医学部附属病院 呼吸器内科)

肺がんと診断されても、
希望を捨てず

われわれ医師と一緒に
前向きに治療に取り組んでほしい。

坂本 博昭 先生
(弘前大学医学部附属病院 呼吸器内科)

青森県弘前市にある弘前大学医学部附属病院は北東北といった広大なエリアの肺がん診療を担っており、地域の病院・クリニックや総合健診センターに定期的に呼吸器専門医を派遣して、肺がん患者さんを速やかに紹介しやすい体制をとっています。今回は弘前大学医学部附属病院に勤務し、肺がん患者さんに最適な治療を提供すべく日々診療に取り組んでいる坂本 博昭 先生に、肺がんと診断されたらどうしたらよいかを中心にお話を伺いました。

おしえて
先生!
とくに症状がなく自分は健康だと思っていると、肺がんを自分ごと化できない方もいるのではないでしょうか?

普段タバコを吸っているなど肺がんのリスクが高いにもかかわらず、「自分は大丈夫」と根拠のない自信をもっている方がときどきいらっしゃいます。ご家族が心配して、検診を受けるよう促し、病院に一緒に来て「先生、タバコをやめるように言ってください」とお願いされたりします。検診の前は「肺がんになってもいい」「いつ死んでもいい」などと投げやりな言葉を口にしていた方も、検診の結果、肺がんであることがわかると非常に後悔されています。タバコを吸っていたり、検診を受けていなかったりといった明確な原因があるので、余計に後悔が大きくなるのかもしれません。このような実際にあったお話をすると、意識を改めて“自分ごと化”して積極的に検診に取り組んでいただけるようになることが多いですね。

おしえて
先生!
自分ごと化するうえでは生活習慣の見直しも大事だと思いますが、がんと生活習慣はどのように関連するのでしょうか?

私が勤務する弘前大学医学部附属病院がある青森県を例にデータを踏まえて解説していきたいと思います。青森県は残念ながら、男女合計のがん死亡率(がんの75歳未満年齢調整死亡率都道府県順位)が全国ワースト1位となっています1)。青森県の特徴として、まず喫煙率が男性では全国3位、女性では全国2位と高いことが挙げられます2)。さらに飲酒習慣者や肥満の割合、塩分摂取量が高く、1日あたりの歩数は少ないことが報告されています3)。これらのことと関連して、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の患者さんが多いこともわかっています4)
喫煙は肺がんをはじめ、さまざまながんの原因となります。飲酒や肥満は食道がんや大腸がん、肝がん、乳がんなどのリスクを、塩分のとり過ぎは胃がんのリスクを高めることも知られています5)。糖尿病では特に肝がんや膵がん、大腸がんのリスクが高いだけではなく6)、血糖値が高すぎるとがん治療の内容を変える必要があったり、血糖値が下がるまで手術を延期したりすることがあります7)。つまり、青森県はがん発生リスクが高い方が多いし、がん治療に影響を及ぼす基礎疾患を持っている方も多いことが、がん死亡率が高い要因の1つになっていると考えられます。
青森県はがん死亡率ワースト1位という状況ではありますが、良くなる伸び代があると考えることもできます。最下位からの脱却を目指して、私も肺がん診療の面から貢献できればと思っています。

おしえて
先生!
肺がんの治療とはどのようなことを行うのか、教えていただけますか。

肺がんが確定したら、がんが肺だけに留まっているのか、それとも別の臓器に転移しているのか、CTやMRIなどの検査を組み合わせて調べます。肺がんの大きさ、広がり具合を調べることを「病期(ステージ)診断」といいます。このステージ診断や肺がんの種類に応じて治療が決定されます。大まかには、早期がんであるステージⅠからⅢの一部に対しては手術や放射線療法を行います。手術後に最終的なステージ診断を行い、それに応じて抗がん剤による治療を行います。
一方、進行がんに対しては手術で腫瘍が取りきれないため、手術は行わず、薬物療法を行います。

おしえて
先生!
進行がんと診断された場合、残された時間はかなり短いのでしょうか。

進行がんの治療に対しては、さまざまな選択肢が登場しています。肺がんのタイプによっては治療成績が良くなっていることが示されています。進行がんの薬物療法に用いられる治療薬には、「抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)」「分子標的治療薬」「免疫チェックポイント阻害剤」があります。それぞれの患者さんに合った治療を一緒に検討していきますので、希望を捨てず、前向きな気持ちで治療を続けていただきたいです。

おしえて
先生!
進行がんの薬物療法について、詳しく教えてください。

進行がんの薬物療法は、がんの症状を和らげたり延命したりすることを目的として行われます。抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤を、患者さんの状態やがんのタイプに応じて使い分けます。
これらのお薬の違いは、がん細胞の増殖を抑えるメカニズムです。
まず抗がん剤は、従来からある治療薬で、化学療法とも呼ばれる治療です(図1)。全身に作用してがん細胞の分裂や増殖を抑える薬ですが、正常な細胞にも作用してしまうため、さまざまな副作用が起こってしまう可能性があります。

「抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)」について詳しく知りたい方はコチラ

図1:抗がん剤(細胞傷害性抗がん剤)(イメージ図)

監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科 教授 岸 一馬 先生

一方の分子標的治療薬は、がん細胞をターゲットにして作用するお薬です(図2)。一般的に、使用できるのは対応する遺伝子変異や融合遺伝子がある場合で、抗がん剤と組み合わせて使われることもあります。分子標的治療薬は従来の抗がん剤では見られない特有の副作用が生じることがあります。

「分子標的治療薬」について詳しく知りたい方はコチラ

図2:分子標的治療薬(イメージ図)

監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科 教授 岸 一馬 先生

最後の免疫チェックポイント阻害剤は、自分自身の免疫システムにがん細胞を攻撃させるというものです(図3)。
「免疫」とは、人の体に備わった異物を排除するしくみのことです。細菌やウイルスなどが体に入ると免疫細胞が異物を攻撃して体を守りますが、日々、体のあちこちでできているがん細胞も異物として攻撃され、がん細胞が増えないように防いでいます。しかし、がん細胞は免疫細胞にブレーキをかけて、その攻撃から逃れることがわかってきました。この免疫細胞にブレーキをかけて免疫力を抑える仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。免疫チェックポイント阻害剤は、その名のとおり免疫チェックポイントを妨害してがん細胞がかけているブレーキを解除し、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を回復させることでがんを抑えます。免疫チェックポイント阻害剤では、免疫が強くなりすぎることによって副作用が現れる可能性があります。

「免疫チェックポイント阻害剤」について詳しく知りたい方はコチラ

図3:免疫チェックポイント阻害剤の働き(イメージ図)

監修 東邦大学医療センター大森病院 呼吸器内科 教授 岸 一馬 先生

おしえて
先生!
インターネットなどで肺がんに関するさまざまな情報が得られるものの、どの情報か正しいか見極めるのが難しいのですが。

ネット上の情報には正しい情報も当然ありますが、間違った情報や不確かな情報も多いので注意が必要です。患者さんも間違った情報や不確かな情報によって、いたずらに不安になったり、特に友人など信頼している方からの情報に固執したりしてしまいがちです。我々医師は、患者さんにとって良い情報は積極的に伝えるようにしています。信頼の高い情報源で病気のことを知っていただき、わからないことはメモして、診察時に医師に遠慮なく質問していただければと思っています。
我々医師は治療をしたから終わりというわけではなく、長いつき合いになっていくつもりで患者さんと向き合っています。治療について不安なこと疑問に思うことは、ぜひ、医師に聞いてください。

  1. 1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(人口動態統計)

  2. 2)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

  3. 3)厚生労働省:平成24年国民健康・栄養調査

  4. 4)厚生労働省:平成21年地域保健医療基礎統計

  5. 5)国立がん研究センターがん情報サービス:がんの発生要因
    https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2022年8月17日閲覧)

  6. 6)癌と糖尿病に関する委員会:糖尿病 56(6): 374-390, 2013

  7. 7)糖尿病情報センター:糖尿病とがん、2つの治療をされる方へ
    http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/080/01.html#02(別ウィンドウで開きます)(閲覧日:2022年8月17日閲覧)

このページのTOP