遠隔転移がんの治療法
~先生からのメッセージ~
遠隔転移がんでは、がんの進行を抑えて症状を緩和すること、生活の質を維持することに焦点を当てた治療が行われます。
再発・転移乳がんの治療成績は向上してはいますが1)、だからと言ってがんに対する絶望や悲しみは変わらないことでしょう。ですが、十分に悲しんで病気に向き合う気持ちになった後には、また前向きに治療に取り組むことができるかもしれないということをぜひ知っておいていただきたいと思います。
転移がんと全身の小さながんをお薬でたたきます
乳がんの遠隔転移は骨や肺、肝臓、そして脳などに多くみられます。これらを切除することは患者さんの負担が大きいため、一般に手術は行われません。全身に散らばっているがんと一緒に、薬物療法で抑えていくことが基本的な考え方です。
薬物療法は、一つのお薬の効果があるうちはそのまま継続、効果がみられなくなったら別のお薬に変更、という方法で行われます。
使われるお薬や治療の流れは、サブタイプによって異なります。詳しくはサブタイプによる治療法の分類、治療の流れをご覧ください。
お薬の効果が出ているかどうかは、定期的な画像検査で転移がんの大きさの変化を調べたり、血液にあらわれる腫瘍マーカーの推移や患者さんの状態を診たりすることで判定されます。
2~3か月の間隔で同じ検査を繰り返し、変化がなかったりがんが小さくなっている場合は効果あり、がんが大きくなっていたり新たながんができている場合は効果がみられない、と判定されます。効果がみられないと判定された場合は、別のお薬を使います。
症状緩和のために転移巣に治療を行うこともあります
骨転移
主な症状は、持続する痛みや骨折、しびれや麻痺、骨からカルシウムが溶け出すことによる高カルシウム血症などです。痛みを緩和するための放射線治療や、骨折予防のための手術などが行われることがあります。
肺転移
肺に転移したがんが進行すると、せき、血痰、息切れやゼーゼーとした呼吸などの症状があらわれます。
元の乳がんの性質を受け継いでいるので、基本的には乳がんに対する治療で対処し、追加で症状を和らげるための治療を行います。
肝転移
肝臓は沈黙の臓器と言われ、症状の出づらい臓器です。肝転移が進行すると、おなかのしこりや圧迫感、痛みなどの症状があらわれます。
肺転移と同様、基本的には乳がんに対する治療で対処し、追加で症状を和らげるための治療を行います。
脳転移
頭痛やふらつき、嘔吐、麻痺、けいれん、性格の変化など症状は多岐にわたります。
転移巣が大きくなることで症状があらわれるため、放射線治療(脳全体に放射線治療をする全脳照射、ピンポイントで放射線治療をする定位照射、がんにピンポイントに放射線を照射するサイバーナイフ、ガンマナイフなどの方法があります)による転移巣の縮小や、手術での切除を検討します。
骨転移の症状緩和や予防のための治療では、乳がんに対する治療とは別の副作用があらわれます。よく知られているのは、骨折などを予防するためのお薬による顎骨壊死(あごの骨が壊死し、露出した状態になること)です。このお薬による治療を受けるときは、事前に歯科を受診し、口内をよい状態にしておく必要があります。
また高カルシウム血症に対する治療では、腎機能が低下することがあります。
負担をなるべく避けるために、治療の際は医師の説明をよく聞き、生活上の注意事項などを指示された場合は必ず守るようにしましょう。
遠隔転移がんでは、治療の目的はがんとの共存にシフトしていきます。
人によっては、そのような治療に歯がゆさを覚えるかもしれません。治療効果よりも副作用の方が多くあらわれているのに、「もっともっとがんばりたい」と病気に抗い続ける患者さんもおられます。
患者さんの希望をなるべく叶える、というのが近年のがん治療の基本姿勢です。ですから、治療選択に当たっては、医療関係者と患者さんやご家族がよく話し合いながら、何が最も良い方法なのかを一緒に考えるようにするのが重要です。
少し治療に疲れた、立ち止まりたいと考えることは、甘えではありません。病気と闘い続けて疲れ切ってしまうのではなく、より長く楽しく人生を歩むための方法を医療関係者とともに考えていけたらよいですね。