乳がんと診断された乳がんと診断された

乳がんの薬物療法
①化学療法
乳がんの薬物療法
①化学療法

~先生からのメッセージ~

「がんの治療」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのが、抗がん剤治療、いわゆる化学療法ではないでしょうか。そしてその印象は、「とにかく辛い」、「なんだか怖い」というようなネガティブなイメージがほとんどだと思います。しかし本来、化学療法は、がん細胞をやっつけ、がん患者さんを幸せにするためのものです。最近では、お薬の量を減らすなど過剰な治療を避けることで、患者さんの負担を軽減するという考え方も普及しつつあります。
ここでは、乳がんに対して行われる化学療法について紹介します。化学療法の目的や具体的な手順を知ることで、少しだけ化学療法に対する印象が変わるかもしれません。

なぜ化学療法をするの?

化学療法は全身療法とも呼ばれ、その名のとおり、全身のどこかにあるがんをやっつけるための治療法です。乳がんの治療では、手術の前後に行う場合と、転移したがんに対して行う場合があり、それぞれ目的が異なっています。

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手術前に行う化学療法

従来は、手術を行うことが困難な進行乳がんを手術できるようにしたり、しこりが大きいために乳房温存手術が困難な乳がんを小さくして温存が可能になるように実施されるものでした。近年ではHER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がんといった一部のサブタイプで、術前化学療法でがん細胞が消失するとその後の経過も良好である、という研究結果が発表されています1)。このような研究結果を受け、最近では術前化学療法も、がんの縮小に限らず、乳がんの初期治療の中で重要な役割を担っています。

1)Spring LM, et al.: Clin Cancer Res. 2020;26(12):2838-2848.

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手術後に行う化学療法

術後化学療法は、全身のどこかに潜んでいるかもしれない小さな転移がんを根絶させて、がんを完全に治すために行います。
そのため、複数の抗がん剤を使ったり、分子標的治療薬を併用して治療します。
この治療では、定められたお薬の種類、投与量、投与スケジュール(標準治療として定められている内容)を守り、お薬の効果を最大限に発揮させることが重要となります。

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転移したがんに行う化学療法

転移がんに対する化学療法は、全身の小さな転移がんを減らし、がんに伴う症状を和らげるために行います。
辛い副作用が出る場合にはお薬の減量や中断、お薬の変更などの対処がとられます。
また、できるだけ副作用が少なくなるように、1種類のお薬を使うことも、転移がんに対する化学療法の特徴です。

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化学療法の流れ

術前・術後化学療法では、抗がん剤や分子標的治療薬以外にも、副作用を抑えるためのお薬が投与されます。また点滴前後や化学療法の翌日以降にも、副作用に対するお薬の内服を指示されることがあります。
複数のお薬を点滴するため点滴時間は最低でも1~数時間程度、7日~21日を1サイクルとして、4~8サイクル程度(3ヶ月から6ヶ月程度)繰り返されます

※がんの状態や使用するお薬によって詳細は異なります。

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化学療法で用いられる薬剤

抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞までも傷つけてしまうことがあるため、「細胞傷害性抗がん剤」とも呼ばれます。一方の分子標的治療薬(抗HER2薬など)はがん細胞特有の分子を狙い撃ちするので、正常な細胞へのダメージが少なくなっています。
お薬によってがん細胞に対する攻撃のしかたが異なるため、組み合わせることでさらに効果を高めることができます。

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副作用が心配?

抗がん剤による副作用で代表的なものは、吐き気や嘔吐、脱毛、免疫力の低下などです。
分子標的治療薬にも、薬によって異なりますが下痢や発疹などの副作用があります。
最近の治療の進歩により、副作用を予防したり抑えたりすることはある程度可能になっていますが、個人差もありますので、気になることがあれば遠慮なく医師や看護師、薬剤師にご相談ください。
患者さんががんばりすぎずご自身の気持ちを素直に医療スタッフに伝えることも、化学療法の重要な要素のひとつだからです。

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“生活の質”を重視した化学療法

昨今では、患者さんの生活の質(Quality of Life:QOL)を重視した治療が注目を集めています。
これは、副作用を減らして患者さんの負担を軽減しつつ、必要な治療効果を担保していこうというものです。
患者さんの状態やがんのタイプにより異なりますが、化学療法は、患者さんのQOL維持と予後改善の両方の実現を目指す方向に向かっています。

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このページの監修をしている先生

坂井 威彦 先生

がん研究会有明病院
乳腺センター 乳腺外科 副部長

原 文堅 先生

がん研究会有明病院
乳腺センター 乳腺内科 副部長